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感覚――感じたことの表現法
「この章で考えたいことは二つあります。一つは、感覚を磨くということであり、もう一つは感覚の表現を磨くということです。感じたことをどう表現するかということです。」
――視覚について。
「自分が見た色を表現するのはやさしいようで、なかなか難しい。」
たとえば沖縄の海。
たとえば実際に小説やエッセイを書く場合には、このような美しい色・風雅な色ばかりの描写ではすみませんよね。でも、目に見えるあらゆるものの色を描写しようとふだんから意識すると、鍛えられるのではないか、と個人的には思っています。実際には一言の色名だけでなく、比喩の力に負うところが多いでしょう。
北村薫『覆面作家は二人いる』
同『六の宮の姫君』での磐梯山の描写。
見えるのは、いったん円錐形に盛り上げたアイスクリームの頂きを、大きなスプーンでごっそり持っていったような山である。大噴火で中央部が飛んでしまったのだ。ガイドブックによれば、それは明治二十一年七月十五日の出来事である。周囲の山肌は刻んだパセリを満遍なく撒いたような緑だが、《持っていかれた》部分は今も露わに土の色を見せている。山の向こう、猪苗代の方には雲があり、それが頂きの欠けたところから綿菓子がふわりと落ちかかるように、こちら側のくぼみに溢れ出している。
(強調は三咲)
ほかにも、北村薫さんには、「卵の黄身をほぐしたような花粉」「露草色の沼」などの描写があるそうです。
色だけでなく、質感までよく表現していますよね。
他に、私が色彩を含む描写でいいなと思ったものをいくつかご紹介します。
雄大な自然情景の描写が非常にうまい作家・花村萬月『心中旅行』。
また、辺見庸「銀糸の記憶」より。
辺見庸さんはジャーナリスト・論説家としての方が有名かもしれませんが、文学作品はこのような鮮やかな詩的な文章が多いです。
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