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小説作家アンケートと私の所感⑤フランス文学編
日本の近代文学や19世紀欧米文学、やっぱり読んだ方がいいという思いで、Xにて直球アンケートを取りました。
その結果と私の勝手な所感を書きます。
四回目は、フランス文学編です。
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ヴィクトル・ユーゴーを読んでいる人は、おそらく大半が『レ・ミゼラブル』でしょう。映画や舞台で興味を持った人も多いと思います。
でも、かなり長編ですし──かつ私の読んだのは岩波文庫、かなり厚い文庫で4冊あります。訳も古いです。かつ、今日的にはあまり意味のないようなユーゴーの思想的・政治的論評も長く入っているので、挫折しやすいですよね。まずは最初の方の「修道院」論で投げ出したくなる人も多いのではないでしょうか。
とはいっても、この本はやはり読み通せば抜群に面白いと思います。私は人生において3回読みました。いずれまた読むと思います。何ていうのかな、あれほど人物の大きい作家はなかなか現代には現れないでしょうね。あと、個々の登場人物が魅力的です。驚くような印象深いエピソードも各所に散りばめられていて、心に残ります。
やや類型化された人物像になっているところはあるとはいえ、おそらく当時のフランスを丸ごと描き出そうとしたその意図に規定されるのではないでしょうか。
とにかく、文句なしに面白い。
かつ、序文の言葉をかみしめたい。
「法律と風習とによって、ある永劫の社会的処罰が存在し、かくして人為的に地獄を文明のさなかにこしらえ、聖なる運命を世間的因果によって紛糾せしむる間は、すなわち、下層階級による男の失墜、飢餓による女の堕落、暗黒による子供の萎縮、それら時代の三つの問題が解決せられない間は、すなわち、ある方面において、社会的窒息が可能である間は、すなわち、言葉を換えて言えば、そしてなおいっそう広い見地よりすれば、地上に無知と悲惨とがある間は、本書のごとき性質の書物も、おそらく無益ではないであろう。」
偉大なる理想主義者でありかつ真のヒューマニストである行動の人、ユーゴー万歳。
ちなみにドストエフスキーは『レ・ミゼラブル』を読んでおり、意識していたそうです。
私が意外だったのは、スタンダールがいちばん読まれていることです。その多くは『赤と黒』でしょう。恐ろしく聡明な美男子が社会で成り上ろうとするお話、というだけでも魅力的ですし、そこで繰り広げられる恋愛の描写も実に面白いです。スタンダールの「恋愛方程式」などと言われますね。
今日の感覚からすると少し呆気ない終わり方ですが、面白さは変わりません。個人的には令嬢マチルドとの恋の駆け引き、その後主人公ジュリアン・ソレルが罪に問われた時のマチルドの奔走ぶりが印象的です。作家としてはレナール婦人との関係の方が訴えたかったことかもしれませんが。
まあこれも、かなり面白い読みがいのある作品です。
ゾラはすごく少なかったですね。『居酒屋』『ナナ』が有名です(これはいずれもルーゴン・マッカール叢書と呼ばれる、実験的にある一族を時代とともに描き出すシリーズの一部です。ですので、『居酒屋』の主人公の娘が『ナナ』の主人公というふうにつながります。なお息子の方の『ジェルミナール』という作品もあるのですが、現在入手が難しいかもしれません。)
『居酒屋』は私にとってショッキングでしたね。主人公を含め登場人物のほとんどに共感できない! 当時のフランスの下層階級の醜い側面を描いているからです。だから読んでいてあまり面白くはないのですが、強い印象は残ります。
それから、最後にどこか救いを見せるのですよね。『居酒屋』では主人公にプラトニックな愛を寄せる青年とその母親。『ナナ』では、いがみ合っていた娼婦仲間がナナが天然痘にかかると、我が身を顧みずに献身的に介護するとか。『ジェルミナール』にも似たシーンが出てきます。
なお、社会性の薄いもの、でも面白いのは(おぞましいと言ってもいい)、『テレーズ・ラカン』。浮気した女が浮気相手とともに夫を殺害する。しかしその後にはより一層の地獄、というこれまた救われない話ですが、ぐいと引き込まれてしまいました。
Xのアンケートは項目が4つしか入れられないので割愛しましたが、アレクサンドル・デュマ(父デュマ)の『モンテ・クリスト伯』、デュマ・リュス(デュマの子)の『椿姫』も面白いですよ。「その他」としてコメントが寄せられていました。
ともあれ、19世紀フランス文学、充実感しか得られません!
20世紀ではカミュやサルトルもいますね。豊かな文学の土壌です。
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