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【第2章】その57✤イングランドの玉座を継承する者

『キングメーカー』ことウォリック伯が自分の馬の喉を切り裂き、タウトンの戦いの前に戦場を放棄しないことを誓う様子を描いたヘンリー・トレシャムの絵



 ロンドンで待ち受けていたウォリック伯の手引きにより、エドワードがロンドンの街、そしてロンドンの城へ入城した際、市民達は大きな歓声で彼を出迎えた。

 そこには子供時代、暗い顔をしていた少年の姿はどこにもなく、若く金髪で長身のエドワードはまるでローマ神話のアポロンのようだった。
 実際これが『キングメーカー(国王を造る者)』と言われたウォリック伯の戦術でもあった。
 長年に渡り、精神的な病を抱えたヘンリー6世との対比を見せつけることが重要だった。

 ウォリック伯はエドワードに言った。
「今こそ、貴方の出番である。我らはランカスターから王座を奪い、ヨーク家と、そしてネビィル家は本来の栄誉を取り戻すのだ」 

 リチャード・ネヴィルことウォリック伯はエドワードの母セシリーの兄の嫡男であり、幼い頃からエドワードにとっては勇敢な年長の従兄、そして12歳の時から戦術を指導してくれた師でもあった。

 またウォリック伯の祖父は、両親を亡くし途方に暮れていたヨーク公リチャードの見受け人になり、名と財産はあったが、でも5歳という幼少期に天涯孤独となった幼いヨーク公を引き取り、家族同然に育てた人でもあった。

 そういうわけで、もともとヨーク家とネヴィル家の関係は深いのだが、血筋ではエドワード3世の血筋であるプランタジネット家のヨーク家が王位に就けば、硬い信頼関係と血で結ばれているネヴィル家も大きな恩恵にあずかることができるということは間違いなかった。

 ウォリック伯は続けた。
「エドワード様、私は臣下の身。貴方様は今から国王になるのだから」

 エドワードはロンドン塔(当時は城だった)に着き、市民のみならず、気難しい議会さえも自分が王になることを反対するそぶりを微塵も見せない事に、どこか夢の中をさまよっているような気分になった。

 ヘンリー6世が王妃マーガレットと共に逃亡したため、ついにヘンリー6世はイギリス議会によって退位を決められ、あれよあれよ言ううちに、わずか数日後にはエドワードの戴冠式の執行日まで決まる。

 父であるヨーク公リチャードが王宮に居住し、既に自分が国王であるかのように振る舞い、空っぽの玉座に手を置いたため、その場に居合わせた貴族一同に警戒心を与えてしまうという事件が起こったのは、たった数か月前の1460年10月のこと。

 あの偉大なる父リチャードさえも叶わなかった願いを今自分が叶えることになるとは、数年前に一体誰が考えたというのだろうか。

「父が王に就いたのち、いつかは自分も」とは思っていた。
ヘンリー王が亡くなった後の王位継承者はヨーク家と前年には確かに決まっていたのだから。

 でもそれにしてもこんなにも早くその日が来るとは、自分はもちろん、母もそしてこの従兄のウォリックでさえも、もちろんヘンリー王その人も、また息子に王位を継承させる一心で戦ってきた王妃マーガレットはもちろん、誰もが思ってもいなかった怒涛の急展開となった。

 もちろんここには「キングメーカー」ウォリックの周到な根回しの準備があった。

 また、エドワードは理解していなかったが、18歳の彼は実は美しい青年に成長していた。193㎝の長身で、金色の髪を持つ彼の甲冑姿は皆の目を惹いた。精神を病んでいて頼りがいのないヘンリー王よりも、また今一つ見た姿からは特に他の貴族と比べて並外れた魅力があるように感じさせないヨーク公リチャードよりも、この治世混乱の時、すべての問題を払拭してくれる、玉座にぴったりの人物であるという空気を醸し出していたのだ。

 この頃イングランド国内では、長年のヘンリー王の問題から、いい加減に解放されたいという気風が高まり、また病弱の王のまま、万が一またフランスなどの他国に攻められ、百年戦争以上の惨事になることを恐れ、一刻も早く聡明な健康的な美しさを持つ王を待っていた市民達の希望の体現としては象徴的な人物と皆の目に映ったのだ。
 
 百年戦争が終わったと同時に内戦『薔薇戦争』が始まり、国民は誰もが疲弊していたこともあり、このまま病弱な王では我らの国を守ることすらできないに違いないと、つくづく感じられていた頃だった。

 そして運命の神はついにヨーク家に味方したのだ。

 戴冠式自体は6月まで待たなければならないが、1461年3月初めにはエドワードは王に推戴される。

 2ヶ月前には当主を失い、もしや全てを失う可能性もあったヨーク家が、嫡男エドワードが王に即位するという大幸運を手に入れ、一族郎党の運命を変えたのだった。

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