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老いて肉を焼くなら鉄板ですか、網ですか?(小原信治)

「老いて肉を焼くなら鉄板ですか? 網ですか?」と店主は言った。

「老いて肉を焼くなら鉄板ですか? 網ですか?」
藤村氏からの問い掛けは、なんだかステーキハウスで肉の焼き方を聞かれているようでもあり、禅問答のようでもあった。老いて肉を焼くなら、という上の句が「老いた自分が肉として焼かれるなら」というグリム童話のようなダークな問いかけにも思えてくる。答え次第では焼き殺されるのではないだろうか。そんな緊張感さえ沸き上がってくる。店主がひとりで営んでいるカウンターだけの店。客は僕ひとり。程良く空調の効いた店内では店主が次のレコードに針を落とそうとしている。店の奥から一匹の猫がこっちを見ている。
「鉄板がいいか、網がいいか、か」
 ポケットからスマホを取り出すと、店主が僕を見て静かに微笑んだ。背後の壁の「店内でのスマホの使用を禁止させて頂きます」の貼り紙が目に入った。背中を冷たい汗が流れていく。流れ始めたジャズが葬送曲のように聞こえてくる。検索を封じられた僕は脳内で「肉 鉄板 網」で検索を掛け、過去の記憶を辿り始めた。

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