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老いても子に従えないことは?(小原信治)

あなただったらどうしますか?

 母に頼まれた横浜市のワクチン接種予約に朝から振り回された。予約システムがとてもじゃないけどユーザーフレンドリーとは程遠いものだったせいだ。空き状況がリアルタイムで判別できないネット予約。ひとつしかないフリーダイヤルで受け付けている各区での集団接種と病院での個別接種の他に、個別の電話予約しか受け付けていない病院接種もある。「只今電話が混み合っております」というアナウンスをチケット予約が電話とプレイガイドの窓口のみだった昭和63年以来33年振りに聞いた。あれは確かBOOWYのラストライブのときだった。苛立ちを募らせるアナウンスはあのときと同じものなのだろうか。当時は一家に一台だった電話も今やひとり一台。誰かひとり繋がればと家族総出で挑んでいる人もいるのだろう。「我先に」というその行為がさらに電話を繋がりにくくしていることに気づかない人間の滑稽さ。トイレットペーパーを買い占めていた1年前と何も変わっていないことに呆れつつ、その愛すべき愚かさに思わず笑みが零れる。こういう時だからこそ誰も振り回さない、誰かを振り回さないシステムを提供するべきだと思うのだけれど、まあ、そっちにはそっちで僕らの知り得ない労苦があるのだろう。と溜飲を下げつつ、誰かを振り回したくないし、誰かに振り回されたくもない僕は焦る母を宥めて殺気だった混沌とさよならした。そもそも行列に並ぶのは好きじゃない。早く予約を取って安心したい母の気持ちも分かるけれど、幸い基礎疾患もないし、急がば回れだ。ここまで我慢したんだ。あと二週間、いやあと一ヶ月くらい待ってもいいんじゃないか、と母を納得させる。こんなとき肉親の為に血眼になって予約を取るのが親孝行なのもしれないけれど、そういう我先にという姿を浅ましく思う気持ちの方が勝ってしまうのだ(競争心を煽ることで国民を積極的なワクチン接種に向かわせたい行政の狡猾さに抗いたい気持ちもある)。母ちゃん、ごめん。

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