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草の根広告社/秋谷日記(ニコニコチャンネル復旧までの臨時更新)

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「海の中で何が起きているのか」

 きっかけは妻の「海苔がまた高くなった」という溜め息だった。子供のいる家庭の多くで同じような声が聞かれたのではないだろうか。子供はおむすびが好きだ。そして、おむすびは海苔がなくては成り立たない。調べたところ、国内最大の海苔生産地である有明の海では「50年に一度、あるいはそれ以上の不作」だという。

「海苔は海の中で育っているんだよね?海の中で何が起きてるの?」と娘に訊かれた。
「一緒に調べてみようか?」と娘の夏休みの自由研究も兼ねて連絡を取ったのは公益財団法人神奈川県栽培漁業協会専務理事の今井利為さん。ぼく自身も委員を務める横須賀市の環境審議会でご一緒させて頂いている水産博士だ。

 専門は栽培漁業。漁業というと漁船による操業だけだと思っている人も多いかもしれないけれど、それが可能だったのは人間が海に手を入れる以前――70年前までの話だという。

「沿岸部を埋め立てて工場や町を作ったせいで浅い海で光合成して育つ海藻やそこで稚魚まで育っていた魚や貝、真鯛やアワビ、サザエなんかが育つ場所が失われてしまったんです」

 海の中の変化はそれだけに留まらない。
「海水温の上昇はワカメの養殖にも影響が出ています」
 ワカメは例年、海水温が下がってくる秋に「ためさし」(田んぼでいう田植えだ)を行い、2月に収穫していたが、近年は海水温が高いままなのでためさしが12月までずれ込んでいる。養殖期間が短くなり、収量も品質も落ちている。

 また、海水温が上がったことで魚たちの生息地も北上している。その結果、相模湾ではアジやイワシが減り、イナダやタチウオなどこれまで獲れなかった魚が水揚げされている。アジフライなど湘南の食文化も少しずつ変わっていくことを余儀なくされるのだろう。

 そんな海の中で今起きている危機について教えて下った今井先生に「海苔」について伺った。
「海苔の不作は海水温の上昇と工場などから処理された真水が排水されることなど複合的な原因があります」
 海が大量の真水で薄まることでもともと海にあった窒素やリンなど海苔が育つのに必要な栄養分がなくなっていること。また、値段が上がっているのは不作以外にも原因があるという。
「燃料費の高騰も価格上昇の原因です。海苔は乾燥させるために灯油を大量に使うんです」

 今井先生は「海のゆりかご」を失った魚たちを陸上の水槽で稚魚まで育て、海に放流する事業の第一人者だ。また、埋め立てや食害、海水温の上昇で砂漠化した海に植樹によってアマモなどの海藻を復活させる活動もされている。しかし、植えても植えても食害とのイタチごっこだという。
「それでも植えないといけないんですよ」

 毎日見ている海でも海の中で何が起きているかはなかなか見えない。海の中で何が起きているのか。何をしなければならないのかが少しだけわかったような気がするね、と娘とも話し合った。大好きなおむすびを食べ続ける為に。未来の子供たちに豊かな海と里山を残す為に、ぼくらが何をしなければならないのかを。


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