見出し画像

モノカキがちょこっとアドバイスします(3)

 さて、今回はまた、自分の小説読んでください系のご質問をいただきましてですね。やっぱりみなさん、自分で小説を書いていると、第三者の意見というのが気になったりするのですかね。
 僕らはまあ、担当編集さんに読んでもらえるので、客観的な意見を貰いやすい立場なんですけど、やっぱり人の意見を聞くとハッとすることも多いのでね。僕のちょっとしたアドバイスが、みなさんの役に立ったらいいなと思いますけれども。

 ということで、今回の作品はこちら!(毎度のことですが、画像が長くなります)


 いつも僕のnoteをご覧いただきありがとうございます。なるほど、モノカキTIPS第6回を読んでいただいて、さっそく実践されたわけですね。掌編は筆力の筋トレにはもってこいですけれども、結構難しいんですよね。せっかく書いたものがいまいち評価されなかったというのは悲しいですが、一旦「よく書けたはずなんだけどなあ、、、」という思いを捨て去って、以下読んでみていただけるとよいのではないかと思います。

 今回も、甘口・中辛・辛口でアドバイスさせていただきます。
 ではさっそく、いってみましょー

■アドバイス~甘口~

 まずですね、掌編としてやりたいことがちゃんと伝わってきたのはとても良かったんじゃないかなあと思うんですよね。タイトルが最後のオチにつながってくるとか、そこにたどり着くまでにいくつかのフリを積んでいくところとか、掌編はこういう組み立てをしなければならない、というツボは押さえていらっしゃると思います。

  多少、推敲が足りない部分(らしい、が連続するところとか)はありますが、日本語の文法が根本的におかしいといったこともなく、基礎の部分はクリアしておられますね。「ポジティブ、ポジティブ!」のノリは面白いですし、こういう感じでいろいろなバリエーションの掌編を書いていくと、次第に筆力、構成力といったところが伸びてきますのでね。ぜひ続けていただきたいなあと思います。継続は力なりです。

 でも、反応が芳しくない、、、というのは、あれですかね。「いいね」があんまりつかなかったのかなあ。まあ、noteの場合、いいねがつくかつかないかは、人の目に留まるかどうか、というところもあるので、考えすぎない方がいいかなあとは思います。

 ただ、僕の目で見る限り、やっぱりちょっとこういうところは今一つだな、という点もありますので、そこは次の中辛で指摘させていただこうかなと思います。

■アドバイス~中辛~

(1)視点を再考しよう
 今回の作品は、地の文が視点人物である主人公の一人称主観視点で書かれておりますね。視点人物のセリフで地の文が構成できるので、とてもテンポのよい文章が書きやすく、ネット上に公開されているアマチュアの方の作品は、主観視点の形式で書かれていることが多いよなあ、という印象があります。

 ただ、今回の作品の場合は、この「視点」が足を引っ張っているのではないか、という気がしました。

 まず一つは、文体の軽さの問題。今作は、セリフの言い回しがとてもライトな雰囲気で、ある種マンガチックにデフォルメされた会話文になっています。これはたぶん、オチの怖さとのギャップを狙ったか、コメディのように見せかける効果を狙ったのかな、とも思うんですが、主人公の主観であるために、地の文も同じようにライトなセリフ調の文体になってしまっているんですよね。そうなると、全体的にちょっとライトになりすぎで、人によっては幼稚な文章ととらえられてしまう気がします。

 セリフ自体をライトに言いまわすのはいいですし、主観視点でもよいのですが、どこかに重しとなるような文章は必要だと思います。じゃないと、なんとなくライトなまま最後までつるっと読んでしまって、「ポジティブモンスター」の怖さや不気味さを感じることなくオチを迎えてしまうんですよ。 そうなると、せっかくのオチの効果もなくなってしまうので、これはもったいないです。
 前半から中盤の間に、ライトな文体ではない、少し落ち着いた文章を入れ込んだ方がいいと思いますね。地の文が主観でセリフ調だとそれがなかなか難しいので、一度、三人称客観(または一元)視点にトライしてみるといいと思います。

 さて、もう一つ、今回の作品で主観視点が難しい理由は、この主人公もまた「ポジティブモンスター」である、ということです。つまり、視点人物の思考は、一般的な人とは違うんですよね。小説を書く時、サイコパスであったり、もしくは一般人には理解できない天才であったりという、特殊な人の「主観を描く」というのは、実はものすごく難しいことです。それを主観で書くためには、たくさんの事例を知って、思考をなんとか理解しよう、想像しようという試みが必要になります。

 なので、こういう場合は客観視点にするか、ポジティブモンスターを客観的に見ている第三者の常識人の主観視点で書く、というのが無難かなと思います。モンスターの主観で書くなら、もっと筆力を鍛えて、物語に説得力を持たせることが必要ですね。

(2)オチが機能していない
 (1)の内容からちょっと踏み込んだ部分なんですが、これが今回の掌編の構造上の一番の問題だと思います。この作品のミソは、「部長=ポジティブモンスターと思わせておいて、本当のモンスターは主人公であった」というオチにあると思います。
 が、オチまで読んでみても、主人公より部長のほうがまだまだヤバい人なんですよ。主人公が部長を超えていかないんですよね。なので、最後まで読んでも、うわあ、こいつ怖え、という感じにならないのです。

 主人公は、序盤からほのかにポジティブモンスターの資質のようなものをにおわせてはいるのですが、それはあくまで部長に感化されたレベルですし、ポジティブが過ぎて自らの命まで失ってしまった部長と比べ、部長が死んだのをラッキーととらえよう、という程度だと、スケールダウンしているように感じてしまいます。部長は現実ではありえないレベルのモンスターですが、主人公は現実にもいるレベルのモンスターなので。

 やっぱり、主人公こそが最強(凶)のモンスターでないと、話としては落ちないんじゃないかなと思います。

(3)エピソードをもう少し練ろう
 作品の中で、前半から中盤までは、読者をミスリードするために部長のモンスターっぷりを際立たせるようなエピソードが配置されています。ただ、このエピソードがそれぞれブロック単位で構築されていて、縦のつながりというのがあまりないんですよね。部長に助けられたエピソード、部長が足を折ったエピソード、部長が死んだエピソード、と章分けのようになっていて、繋ぎ方も「とある日」「とある月曜日」「またある日」というワンパターンなので、これだと読者には作者の都合のいいエピソードをただ並べているだけのように見えてしまいます。

 それから、「足を折ってもポジティブ」という部長の異常性を見せるために用意したエピソードが、「バレーボール大会」というのは、読者にはあんまりぴんと来ないと思うんですよ。50代の社会人で、しかも部長クラスの男性がバレー大会に出ているというのが、(もちろんそういう方もいるでしょうが)一般的にイメージしづらいので、足を折るためだけに取ってつけたようなエピソード、という印象になってしまうんですよね。
 掌編はこまこま背景を説明することができませんから、多くの読者が持っているであろう共通認識や固定概念をうまく利用して話を作った方がいいと思います。中年男性なら、ゴルフとか筋トレなんかの方がイメージしやすいんじゃないですかね。

 また、この部長のモンスターぶりを説明するために作品のかなりの部分を割いているんですが、正直、これはオチへの前フリでしかないので、掌編という限られた枚数の中では、前フリだけにこの字数を費やすのはもったいないかなと思います。主人公の異常性をにおわせたり、後半に効いてくる伏線となる一文を入れたり、もっと違う展開も入れられたのでは。
 「足を怪我していたせいで子供を助けるときに上手く動けず、結果命を落とした」というエピソード間のリンクはいいと思います。こういう、エピソードが繋がっていくような必然性、流れをもっと作った方がよいと思いますね。

(4)感情曲線を意識しよう
 前述のお話と少し被るんですけれども、今回のお話は文体が終始ライトめです。なので、読み始めから読み終わりまで印象が変わらない、というところも弱点の一つであったかなあと思います。そうなると、オチの怖さ、迫力というものを感じられないんですよね。

 ストーリーのどの地点で読み手の感情がどう揺れ動くか、ということをグラフのようにして表現したものを「感情曲線」といいます。この感情曲線を意識することで、短いストーリーでも読者を物語に引き込むことができるようになります。今回の場合も、この感情曲線を上下させるような展開があった方がよかったなあと思いました。

 最初は軽いコメディとして笑わせておいて、中盤の怪我のエピソードで少し影を落として違和感を与え、部長の死のくだりでぐっとテンションを下げて読者の読み味も一変させる。そして最後に再びライトな文体に戻して、部長の死を歓迎する「モンスター」の異常性を読者に感じてもらう、というような感じ。

 ホラーとして描くなら、大オチで読者の感情が「恐怖」という負の感情の最高点に達するように書かないといけないわけですが、今回のお話だと、負の感情の頂点になるのが、足がひん曲がったくだりになっちゃうかなと思います。一番グロいじゃないですか、あそこが。

 もっとオチに一番のヤマを持ってきて、最初に出てくる部長の「ポジティブ、ポジティブ!」と、最後の「ポジティブ、ポジティブ!」の印象をがらりと変えなければならないわけですね。でも、今回の場合、あまり印象の落差がなかったように思います。

 掌編という短い小説でも、読み手の感情の起伏を持たせるような表現、描写の落差、ギャップのようなものを作ってあげた方がいいかなと思います。よくいわれる、ストーリーの緩急、メリハリ、みたいなものですね。物語の構造としての起承転結を意識するのと同時に、読者の感情曲線も意識してみるといいと思いますね。

■アドバイス~辛口~

 構造的な問題点はオチが前フリのインパクトより弱いところ、というのは前述のとおりですが、質問者さんの書き手としての問題点は、質問文にあった、「どこがいけなかったわかからない」という一文に表れているかなと思います。
 これはたぶんですね、自分の作品を読んだ人がどう感じるのか、という読者視点が持てていない証拠だと思うからです。読者の気持ちになって読み返してみれば、この作品最大の問題点というのがある程度想像できるんじゃないかなと思うのです。

 その問題点とは、読後感ですね。

 たぶん、質問者さんは、オチまで読んだ読者さんに、ぞわっとしてもらったり、うわあ、、、と思いつつにやっと笑ってもらったりしたかったんじゃないかなと思うんですよ。でも、正直、(辛口なので言葉を選ばずにいいますが)僕の読後感は、「胸くそ悪いなあ」でした。もし、この感覚が実際に本として刊行しているもののラストで味わったものだとしたら、僕はたぶん、その作家さんの別の作品を読もうとは思えなくなるかなあ、というくらいの感じです。

 一番の要因は、部長がめちゃくちゃいい人だということなんですよ。仕事で失敗した主人公を助けてくれていますし、自分の命を賭して少女を救ってもいます。ポジティブさは過剰だったかもしれませんが、奥さんにも愛されていて、一生懸命働いている人。なんなら主人公自身もその死にショックを受けていたくらいですから、間違いなくいい人として描かれているんですよね。

 いい人が、いいことをした結果、残念ながら亡くなってしまった。しかも、主人公にとっては恩のある人です。それを「自分の出世のためには、あの人が死んだ方がよかったんだ」と考える人は、ポジティブモンスターというよりは、単純に「人でなし」に思えてしまうんですよ。強烈なサイコパスに対してぞわっとするような感覚ではなくて、なんなんだこいつは、という人間性に対する嫌悪感に向いてしまったのだと思います。大体の人は、人生で一度か二度はそういう人間性に問題のある人を見てますからね。人のメダルを平気で噛むおっさんとかね。なので、主人公には悪い意味でのリアル感が出ちゃったかなあと思います。

 たぶん、部長のポジティブさによって主人公が振り回されていたり、ハラスメント的な実害を受けていたのなら、読み味は変わっていたと思うんですよ。ポジティブモンスターの被害者であったはずの人が実は真のモンスターであった、ということであれば、どんでん返しにもなりますし、ぞわっという感覚もあります。でも、主人公はモンスターとしては小粒ですし、なんなら部長のことが好きだったわけですから、それがオチの数行でころっと人でなしになり下がってしまうと、面白かった! という読後感にはならないかなあと思います。

 世の中には、イヤミスという読後感最悪の小説ジャンルもあるわけですけれども、そういった作品がそれでもファンを獲得するのは、やっぱり人間の心理とか、心の闇を丁寧に掘り下げて描写するからだと思うのです。読者は、自分の中にもある薄暗い影を小説によって赤裸々にされることで、嫌だ、胸くそ悪い、と思いながらも、ぞくっとする怖さという負のカタルシスを感じるんですけれども、今回は文体がライトなこともあって心理描写が足りず、(サイコ)ホラーとしては怖さが中途半端になってしまいました。さらに部長がいい人であったために、ブラックジョークにもならなかったな、という感じがします。

 質問者さんはおそらく、このアイデアを思いついて、それが物語としてひとつの形になった、ということで、「よく書けた」と自己評価したのではないかなと思います。が、モノカキとしてはもう一歩先、この物語を読んだ人がどういう気持ちになるのか、というところまで考えないといけないのではないかなと思うんですよね。そういう視点を持てば、オチをどう効かせるか、というところももっと深く考えられるようになると思います。

 もし、質問者さんが小説家を目指すのであれば、文章力やストーリー構成といったテクニックの部分を気にする前に、まずは、自分以外の人の気持ちを丁寧に想像する、ということを意識した方がよいかなと思います。「自分以外の人」というのは、家族であり、身の回りの人であり、読者でもあり、そして小説に登場するキャラクターたちでもあります。人の気持ち、情動、心理といったところに想像が及ぶようになれば、自ずと書くもののレベルは上がっていくんじゃないかなと思いました。

 掌編をたくさん書きながら、いろいろなキャラクター、そして読者の気持ちを想像する練習をしてみてください。

――――――――――――――――

 ということでございまして、今回もちょこっとアドバイスをさせていただきました。そうねえ、辛口のところはねえ、毎回確かに少し厳しいことを言っていると思いますし、批判されたときのメンタルダメージというやつは僕も重々わかってますから、あんまり言いたくないんですけどね。それでも、質問者さんたちのステップアップのヒントにはなる(はず)と思っていますので、ここはひとつ、ポジティブにとらえていただけるといいかなと思います。ね。

 ポジティブ、ポジティブ!


 モノカキTIPSでは質問を募集しております。小説に関するご質問、その他答えられる範囲のご質問であれば随時回答させていただきますので、どしどしお寄せくださいませ。

 なお、今回のような「小説読んでみてください!」系のご質問の場合は、以下ご注意くださいませ。

・長編は読めないので、2000字くらいまでの短文で。
・文章の校閲や校正はしません。
・具体的なストーリーの修正案やアイデアは出しません。
・あくまで、僕が自著宣伝目的もあって無料で受け付けているだけなので、
 他の作家さんにアドバイス依頼をかけるのだけは絶対にご遠慮下さい!

 9月24日に新刊がでます。ただいま予約受付中ですので、何卒よろしくお願い申し上げます。

小説家。2012年「名も無き世界のエンドロール」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。仙台出身。ちくちくと小説を書いております。■お仕事のご依頼などこちら→ loudspirits-offer@yahoo.co.jp