ご質問にお答えします(4)「他作品と設定がかぶってしまうときは」
モノカキTIPS、今回はご質問への回答でございます。ちょうどね、ネタに困った時に届くご質問。ありがたいものでございます。及時雨ですよこれ。宋江だなさては。意味不明な方はコチラを。
余計な話は置いておいて、今回のご質問は……!
はじめましてー。わーい
なるほどなるほど。まあ、こういったことはありますよね。何しろ好きなものだからしょうがない。でも、ご自分でもお気づきの通り、好きな作品の模倣だけでは新人賞を獲るのは難しいかもしれませんね。
では、少しお話してみましょー。
■「好きなもの」をもっと増やすといい
まずね、これは僕の考え方ですけれども、今、日本で作られているエンターテインメント作品て、最初から最後まで他の作品の影響を受けることなく成立しているもの、というのはほぼ存在しないと思うんですよね。それを生み出せる人は稀有の大天才だと思います。少なくとも僕はそのタイプではないですが、小説を書くお仕事はできています。
どんなクリエイターでもアーティストでも、その世界に入る前には影響を受けた作品があって、それを出発点にして自分のオリジナリティを確立していくんだと思うんですよね。なので、今存在するエンターテインメントというものは、多かれ少なかれ、過去作品の要素を引き継いで作られているのではないかなと思います。そういったものは自然に自分の作品にもあらわれてきますし、設定が好きなものに引っ張られるのは、プロにもままあると思います。僕もあります。最近も、ノーラン監督の『TENET』にめちゃくちゃ引っ張られた、時制いじりまくりプロット作りましたからね。いつか発表できる日が来るだろうか。
ただ、じゃあなぜプロが他作品に引っ張られてもオリジナル作品として成立させられるのかと言うと、たぶん、影響を受けた作品の数がべらぼうに多いんだと思うんですよ。
たとえば、ゲームの世界観に影響を受ける場合でも、一作品だけがものすごく好きで、それに引っ張られればまんま同じものになってしまいますけども、もっと多く、いろんなジャンルのゲームが好きだったらどうでしょう。かわいいエルフのいるファンタジックなRPGが大好きだけど、臨場感に溢れたリアルなFPSも好きだし、硬派な歴史シミュレーションも好きだし、音ゲーも格ゲーも好きだ!となると、影響を受けるものもたくさんありますから、そのあらゆるインプットの結果アウトプットされるものって、いろんな要素が組み合わさったものになると思うんですよ。その組み合わせが面白ければ、それは書いた本人の「オリジナリティ」になります。
僕は、自分の作品はテクノとかヒップホップ的だと思っているんですよね。過去の有名な作品の一部をサンプリングして、自分で作った音と組み合わせて、新しい音を作る。つまり、トラックメイカーとかDJみたいなことを小説でやっているわけですね。DJカヲルですね。単独だとどこかで聞いたことのあるようなアイデアに、もう一個別のアイデアを持って来て、掛け合わせて話を作ることも多いです。
なので、質問者さんは、今はまだまだインプットが足りていないのかもしれないですね。好きなジャンルの幅が狭いか偏っているかで、その狭い範囲から持ってきた世界観や価値観が、どうしても自分の作品でも目立ってしまうんじゃないでしょうか。
もっと大きく目を開いて、あらゆるものを貪欲に吸収するといいと思います。古いもの、新しいもの。面白いもの、つまらないもの。好きなもの、きらいなもの。いろいろなものをインプットして、それを一度自分の中でしっかり消化してから吐き出すことができれば、おのずと、出てくる作品はいろいろな要素が詰まった新しいものになるんじゃないかなあ。これまで興味のなかったジャンルの作品も、積極的に触れていくようにするといいですね。
実際、作家さんて、ある一つの作品やジャンルだけが異常に好きなガチヲタタイプの人ってそんなに多くないと思うんですよ。たとえば、ご自身はミステリー作家さんでも、歴史小説も好きだし、恋愛ものも好きだし、みたいな。「好き」の間口が広い人がすごく多いと思いますね。
■「自分らしさ」を意識してみるといい
この世界には「作家性」という言葉がありまして、要はその作家がどういうタイプの作家なのか、どういうジャンルの作品を書くのか、をあらわす言葉であるわけですけれども、これはね、正直僕も自分の「作家性」ってよくわからない。なぜなら、「作家性」は他人から見た自分がベースだから。
でも、自分の中では「こういう作品を作りたい」という漠然とした軸のようなものはあります。僕の場合は、情景描写や心情描写を削ってでも作品のテンポを上げたい、とか。日常を描く時も、ちょっとだけファンタジックな要素やキャラクターを入れて、日常と非日常が混在する物語にしたい、とか。自分の好みというよりは、作品を書く時の自分のスタイルとして常に意識していることなんだと思います。
創作をするにあたっては、この「自分らしさ」みたいなところを意識するといいんじゃないかと思うんですよね。で、これは自分の中だけにあればいいと思います。「作家性」ほど大げさなものじゃなくて、「個人的なこだわり」くらいでいいんじゃないかな。そういう自分の創作者としての背骨みたいなものができると、たとえ設定が他の作品と被っても、出来上がったものはまったく違ったものになると思いますし。
もうね、設定は被るんですよ、どんだけ頑張って避けようとしても。自分の好みみたいな意図的なものでなくても、ほんとに偶然被ってしまうこともあるわけで。でも、自分の作品に軸があれば、「これ、設定があの作品と一緒だけど、内容は全然違うね」となります。
いずれ、そういう背骨、柱みたいなものは、モノカキをやっていくうちに、一本、二本と増えていきます(ずっと一本で貫き通す人もいるけど)。新人賞の応募のときは、まず「自分らしさ」の背骨を一本はっきりと通してみて、設定で悩むよりも、そのモノカキとしての背骨を軸にいろいろ書いてみるといいんじゃないでしょうか。
■設定表を作ってみよう
これは少し、技術論的なお話。
小説を書き出す前に、まず簡単な設定表みたいなものを作ってみるといいんじゃないかなと思います。世界観とか、キャラクターをざっくりまとめたもの。作ってますかね。
一度作ってみて、「あれ、この設定〇〇じゃん」みたいな要素に気がついたら、その部分の設定を消して、考え直す。置き換える。例えば、ファンタジー世界の世界観を、現代に日本に置き換えてみる、とか。キャラクターの性別・性格を変えてみる、とか。
それを何度も繰り返していると、だんだん元ネタの要素が消えていくわけなので、オリジナルなものになっていくんじゃないかなと思います。もしね、近しい友人などいれば、一度設定やプロットを読んでもらって、「これ〇〇じゃん」というところを探してもらってもいいかもしれないですね。
■いっそ、設定丸被せで書いてみよう
それでもどうしても好きな作品に設定が引っ張られてしまう、、、という時は、むしろ設定を丸被せにして、「それでもなお違う物語」を書く練習をするといいと思います。
二次創作かそれに近いものは、正直、ゼロイチが必要なオリジナル小説のいい練習になるとは言い難いんですが、同じ設定でまったく別の物語を作る、というのは結構テクニカルだったりするので、とにかく元ネタと違う作品にするにはどう持っていくか、と考えながら書いてみるといいと思いますね。
僕は結構こういうの好きで、編集さんと打ち合わせをする時は、「あの作品の設定で僕が書いたらどうなるか」みたいなところから企画をスタートさせることもありますね。
■結論
ということで、結論としましては、
・自分の好きな作品の影響を受けることは仕方がない
・なので、もっといっぱい好きな作品をインプットしよう
・そして、「自分らしさ」を意識してアウトプットしてみよう
という感じですかね。
まずは、設定が被ってもいいから、自分のオリジナリティを意識して書き上げていくといいんじゃないかなと。全体的な雰囲気でもいいし、キャラ造形の仕方でも、セリフの言い回しでも、文体でもなんでも。「あ、これ俺っぽいな」というところが自分の文章の中から見いだせたり、それをあえて盛り込めるようになってくると、多少の設定被りは跳ね返せるくらいのオリジナリティが出てくると思います。
がんばって書き続けてみてくださいね。
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毎度、問題解決の手助けになっているのかわからない質問回答編でございますけども、もしね、何か聞いてみたい、と言うことがあれば、お気軽に質問をお寄せください。創作関係なくてもいいですけどね。
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小説家。2012年「名も無き世界のエンドロール」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。仙台出身。ちくちくと小説を書いております。■お仕事のご依頼などこちら→ loudspirits-offer@yahoo.co.jp