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ご質問にお答えします(12)「小説を読むときに気にすること」

 さてはて、もうじきGWというところですけれども、昨年と同じように、新型コロナの感染拡大が起こってまいりましたね。なかなかねえ。ワクチンが広がるまでは終息しないのだろうなとは思いますけれども、みなさま何卒お気を付けくださいませ。

 ということで、今回はまたご質問をいただきましたので、回答したいと思います。今回のご質問はこちら!

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 最近頂いていたものとは少し違って、書き手としてではなく、読み手としての僕の視点について、という内容で、こういうのも毛色が違っていて面白いご質問だなあと思いました。ありがとうございます。

 ではでは、さっそく回答させて頂こうと思います!

■僕の唯一無二の価値観

 さて、以前、質問回答編(6)で、「能動的読者」「受動的読者」というお話をさせていただいたのですけれども、僕はどちらかと言えば受動タイプの読者でございまして、基本的には書いてあることをそのまま飲み込む「受け」の読み方をしています。

 たまにね、先の展開がこんな感じになりそうだな、という予感めいたものを感じることはあるんですけれども、じゃあ積極的に先読みしたりするかといえばそんなこともなく、序盤で提示された伏線は拾って回収時に驚き、すごく素直に叙述トリックに引っかかり、感動の場面では作者の狙い通り涙を流し……という、自分で言うのもなんなんですが、作家にとっては「チョロイ読者」ではないかなあと思います。もうね、ほんとに書き手の意図通りに感情を弄ばれて、やられたよー、と思いながら読書を終えるのが好きですね。

 もちろんこう、自分も書き手ではありますから、もし自分がこの題材で書いていたらどうなるか、みたいなことも考えるんですけど、それはどっちかって言うとアニメとか映画を観た時に感じることが多いかなあ。
 あとはまあ、「この場面で主人公は何を考えていたのか」みたいな、いわゆる「行間を読む」的なことはするんですけれども、これは意識して分析しているわけではなくて、作品に寄り添った結果として考えていることかもしれないなあと思います。

 じゃあ、たいして何にも考えていないのかと言うと、唯一、読書の時に気にすることがあります。

 それは、リズムが合うかどうか

 僕は、文章を書く時、一番気にするのはリズムとかテンポなんですけれども、読み手の目がどうすれば滑らかに動くか、句読点でつけるリズムがいかに気持ちよく伝わるか、というところはちょっとこだわっています。逆に言えば、それ以外あんまこだわってないかなあと。
 なので、他の作家さんの作品を読むときも必然的に、内容が云々とかストーリーがどうこうとか言う前に、文章のリズムが気持ちいいかどうか、を一番気にしていると思います。皆さんが感じるかどうかはわからんのですけれども、なんかね、すごいリズムが気持ちいい作家さんいるんですよ。それは、その作家さんの文章の上手さというよりは、音楽と一緒で、ほんとに僕の気持ちいいリズムと合うかどうかっていうだけだと思うんですよね。

 なので、とても心地よいリズムの文章で書かれた作品を拝読した時には、このリズムを生み出しているワードや文体はなんなのか、というところはちょっと気にして読んでしまうかもしれません。

 でもまあ、僕はあれですね。読者の時は読者として楽しみたい派なので、あんまり「分析」ということはしていないかなあ。

■分析ガチ勢の作家さんもいる

 さて、僕は前述の通り、読書の時は読者に徹するタイプではありますけれども、やっぱりね、作家さんというのはいい意味での変態が多いですから、えらいこと分析している方もいらっしゃいます。

 僕が見た中で、すごすぎる、と思ったのは、某ミステリ作家さんですけれども、読んだ作品をすべて文字起こしして、漢字使用率とかまで全部データ化している方がおられまして。「漢字使用率が下がったということは、読みやすさを意識して書いたのかもしれないですね」なんてことをさらっと言っておられたので、ああ、この方は(いい意味でガチの変態なんだなあ、と度肝を抜かれた覚えがあります。そういえば、尋常じゃないほど多作な先生で、僕には到底真似できそうにありません。文壇には、すごい方がおられます。

 あとは、作品ごとの感情の盛り上がりとページ数のグラフを作って、感情曲線を可視化しておられる方もいらっしゃいました。で、売れている作品や名作と呼ばれる作品には感情曲線のパターンがあって、そのパターンを参考にして自作を書かれている、みたいなことをおっしゃられていたかと。とても理系的なアプローチで、面白いなあ、と思います。

■結論

 僕が読者として小説を読むときに気にするのは、「リズムの気持ちよさ」だと思います。分析と言うほどではないですが、心地よいリズムの文章を書く作家さんの作品は、次も次もと集めて読みたくなりますね。

 ただ、世の中には分析ストロングスタイルの作家さんも多くいらっしゃるので、SNSなどやられている作家さん方に聞いてみると、いろいろな視点を提示してもらえるかもしれないですね。
 結構ね、創作論を語り合うのが大好きな作家さん多いですから、Twitterで「#小説を読むときに分析してしまうこと」みたいなハッシュタグを仕込んで文芸界隈に流してあげると、プロアマ問わず、食いついてくる方多いんじゃないかなあ、なんて思いました。よかったら試してみてください。

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 僕も、デビュー前までは理屈で物事を考えるロジカル理系脳の分析魔だと思ってたんですけれども、デビューしてから他の作家さんのお話を聞いているうちに、マジでなんも考えてない感性型野生児だったわ、と思うようになりましたね。ロジック型から感性型まで、いろいろなタイプの方が混在している、面白い業界だなあと思いますけども。

 さて、モノカキTIPSでは皆様からの質問を随時募集しております。どうぞお気軽にご質問くださいませませ。


 今月刊の文庫新刊も好評発売中でございます。でも、恥ずかしいのであんま分析して丸裸にせんといてくださいね、、、!


小説家。2012年「名も無き世界のエンドロール」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。仙台出身。ちくちくと小説を書いております。■お仕事のご依頼などこちら→ loudspirits-offer@yahoo.co.jp