『本日のメニューは。』のウラバナシ(5)
いやいやですね、先日、拙著『本日のメニューは。』が宮崎本大賞を受賞いたしまして、わー、嬉しい!とか思っていたところで、はっと思い出したのが、ウラバナシ五話分まだ終わってないじゃん、、、ということ。
まあ、noteはゆるゆるやらせて頂いているので、思いついた時に書いているんですけれども、せっかく賞を頂いたのでね、久しぶりにウラバナシでもしてみようかなあと思います。
今回は、収録作の最終話、「ロコ・モーション」についてのウラバナシ。
↓↓↓ おさらい ↓↓↓
■一番気に入っている話
こういった、短編集という形式のものを出しますと、読んでくださった方から「どの話が一番好きだったか」という感想を頂くことがありましてね。本作では、2話目の「おむすび狂詩曲」を推して下さる方が多かったですね。レビュー投稿サイトなんかをチェックしてくれている担当編集さんからも、「圧倒的に2話目推しが多い」というお話を聞きました。やっぱりあれですかねえ。おむすびとか、お弁当とか、一番身近に感じるお話だからかな?
「おむすび狂詩曲」は、5編の中で一番時間をかけて、編集さんと意見を何度もぶつけ合いながら作ったお話なので、熱量高めで書いたのが伝わったのかなあ、とも思います。
じゃあ作者はどうなのかと言いますと、実は5話目の「ロコ・モーション」が、一番気に入っておりまして。理由は、近年の作品では一番、やりたかったことが全部やれたから。意外とね、書き終わった後に、こういうことも言いたかったけれど、構成上できなかったなあ、あのシーンも入れたかったなあ、みたいな心残りがあったりするもんなんですよ。短編だと、枚数の制限もあるので特に。
でも、「ロコ・モーション」は、僕的にはすっきり終われて、それが結果として本作の読後感をよくしてくれたんじゃないかなあと。メインほどのインパクトはないかもしれないけれど、食後(読後)の余韻と幸福感をもたらす「締めの一品」というのは、とても大事だったりします。
基本的に、本作に登場するお店の店主たちは、お店の営業に行き詰まりを感じていて、あと何年この仕事ができるだろうか、と考えている人が多いわけなのですが、現実でもたくさんそういう方がいらっしゃると思うんですよね。特に、今はお店の存続に悩んでいる方が多いかもしれない。なので、最後は未来を見てほしいというか、「味」という目に見えないものが引き継がれていくところを書きたいなあ、と思って考えたのが5話のストーリー。
タイトルにある「ロコモーション」は、登場するロコモコともかかっているんですが、元々は蒸気機関車の推進力を表す言葉でして、あの重い鉄の塊を、熱で生まれた蒸気の力でじわじわと、ぐいぐいと押していく力、みたいなイメージと、これからの若い人たちが情熱をもって未来へと進んでいく力を重ねあわせたワードになっております。なんか、そういう重たい列車が走り出して、風を切り出す時の感覚を小説に込められたかな、と思って、個人的にはお気に入りの話になっております。
■「Locomotion No.1」のモデル
作中に登場するキッチンカー「Locomotion No.1」は、「究極のロコモコ丼」がウリなわけですけれども、このロコモコも、いくつか参考にさせていただいたお店がございますね。
一つ目は、ちょっと遠いけれども、ハワイにあるお店。
「アロハテーブル・ワイキキ」さんのロコモコ。
ハワイの観光局のグルメアワードで、ロコモコ部門の1位に輝いたお店。なんかこう、僕らが漠然と持っているロコモコのイメージを完全にぶち抜いていて、作中の「究極のロコモコ」の究極感の参考にさせて頂いております。
本店の方には食べにいったことがないんですが、本店はソースがデミグラスソースらしいんですよね。で、日本の支店で出しているロコモコは、ソースがグレービーソース。作中では、デミグラスとグレービーのいいとこどりみたいなオリジナルソースが考案されるのですが、元ネタはこういったところにあります。
二店目は、こちら。
アッシェ・ドール・タケウチさん。
こちらもね、実はお店には伺ったことはないのですけれども、シェフの竹内氏がテレビで「肉汁を出さないハンバーグ」の作り方を紹介しておられまして、今回のロコモコ丼のハンバーグの、口の中で初めて肉汁が溢れる、という描写の参考にさせて頂いております。
たぶんね、切ると滝のように肉汁が溢れてくるハンバーグも、ヴィジュアル的な美味しさが伝わりやすくて、どちらも食べれば「うま!」ってなると思うんですけれども、今回は出ない方を選択いたしました。なんか、口の中でどかーん!て来る方が、今作にはあっているかなと思いましてね。
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てなわけでございまして、5話分のウラバナシ、いかがでしたでしょうか。宮崎本大賞ということで、宮崎県ではすごく推して下さっているようなので、ぜひぜひ、ウラバナシと併せて本作もお手に取って頂ければ幸いでございます。
小説家。2012年「名も無き世界のエンドロール」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。仙台出身。ちくちくと小説を書いております。■お仕事のご依頼などこちら→ loudspirits-offer@yahoo.co.jp