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楳図かずおさんと国立のカフェ・ダン・ラ・シャンブレット

30年ほど前、大学院生時代に、国立にあったカフェ・ダン・ラ・シャンブレットでアルバイトをしていました。そこに楳図かずおさんが現れました。風のように、お客さんとして突然に。

小さなお店なので目立つとよくないかと思い、奥の席を案内しました。一面のガラス越しに大学通りが見える席です。お店の内側に向かうのではなく、ガラス側に向かって座ってもらえてよかったと思いました。
オーダーを取りに行くと、慣れた様子でブレンドを注文されました。(マスターにアイコンタクトすると、前にも来店されたようでした。)

ふいに、地震があるとどこに逃げるのか、と質問されました。周りに気を遣って小声で話されたようだけど、よくとおる高い声だったので、隣にいた常連さんもアドバイスしたかったと思いますが、落ち着いた大人なお店で、みんな見ない、聞こえないふりをしている雰囲気でした。
このあたりは大学通りがあるし、とにかく一橋大学が広いので安心ですよ、と話しました。すると、イトーピアはどう?と、かなりピンポイントで聞かれました。仕事でマンションを探しているとのこと。
ちょうどイトーピアに住む友人がいたので、住んでいる人もたたずまいも落ち着いたいいマンションだけど、天井が低めかもしれない、と話しました。楳図かずお作品の、耽美的で豪奢な洋風邸宅をイメージしてしまいました。

ゆっくりされた後、お会計に。領収書がほしい、と言われました。「宛名はう、め、ず、か、ず、お。難しい字だから書きますよ。」と高い声で話すので、大丈夫です、と、フルネームを書いてさしあげました。それはもう私、書けますよ。

数ヶ月後にもう一度、見えました。混んでいてお話しできなかったのですが、大学通りのガス灯風のライトや木々を背景に、リヤドロのお人形やマイセンのプレートなどが置かれたカフェ・ダン・ラ・シャンブレットの窓側の席で、完成した絵のように決まって見えました。

楳図かずお作品との出会いは小学生の頃、浅草のいとこの家でした。お寺の家で、今はお坊さんをしている従兄弟がジャンプや単行本をたくさん持っていました。『まことちゃん』とかは苦手でしたが、関東大震災を免れた近代住宅の薄暗い小部屋で、へびや蝶などが出てくる短編を読みふけりました。
当時は水野英子や郷ひろみが大好きで、ひらひらしたフリルのワンピースが似合い、ピアノが上手で、楳図かずお作品に出てくる目の大きくて可憐な少女のようだった、姉のような従姉妹とは、ちょうど楳図かずおの訃報が流れた時に電話があり、「へび少女」とか「たまみちゃん」とか怖かったよね!と昔話で盛り上がりました。もちろん本人に、楳図かずお作品に出てきそう、と伝えたことはありませんが・・・。

楳図かずお先生のお名前は、たくさん残された作品やテレビなどで活躍された姿を表す固有名詞のようなものなので、昔のように、そしてこれからも、あえて敬称を付けずにお名前を呼び続けてよいですか。
ご冥福をお祈りいたします。本当に心から。
『笑い仮面』、大好きでした。楳図かずおにこんな風に言われたら、アリ人間みたいに全力で応えたいです。
「行け、ススム!!」
「ギー!!」

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