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【ニッコールレンズとレンズフードの話】『閃光のAI Nikkor 50mm F1.8S』……AI Nikkor 50mm F1.8Sに有効かつ似合うレンズフードというものは存在するのだろうか

【おことわり】
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大好きなAI Nikkor 50mm F1.8Sについて語りますよ

AI Nikkor 50mm F1.8S(1980年)のことは、ブログで何度も記事にしている。1980(昭和55)年に発売された、比較的薄型でコンパクトなサイズのマニュアルフォーカス標準レンズだ。いくつかのバージョンがあるが、私が所有しているものは最短撮影距離が0.45メートルで、ピントリングにラバーが巻かれている「国内版」だ。

AI Nikkor 50mm F1.8S(国内版)
この個体は非AI方式カメラ用露出計連動爪つきの絞り環に交換されたもの

レンズ構成:5群6枚
画角:46°
最短撮影距離:0.45m
質量:175g
最大径×長さ:63×27.5mm(先端よりバヨネット基準面までの長さ:36.5mm)
フィルター径:⌀52mm

初期出荷状態のこのレンズには、非AI方式のカメラの露出計に連動して開放測光を可能にする露出計連動爪は存在しない。だが、この個体は露出計連動爪つき絞り環に交換されている。かつて有料でそういう交換サービスが行われていたので、この個体はそれを利用して絞り環が交換されているものだ。

この状態で市場に出ているものはたいへんめずらしい。私はこの個体しか店頭で目にしたことはない。むしろ、露出計連動爪つき絞り環に交換済みであるからこそ購入したほどだ。

1984(昭和59)年12月1日版レンズカタログより
AI Nikkor 50mm F1.8Sの露出計連動爪つき絞り環有料交換サービスと
ニコンレンスシリーズEに露出計連動爪は取りつけられないむねの注意書き
(2024年9月現在はこの絞り環交換サービスはすでに終了している)
この個体は非AI方式露出計連動爪を持つので
ニコンフォトミックFTnでも開放測光で露出計を使うことができる。
爪のない通常の個体はプレビューボタンを併用した絞り込み測光しかできない。
露出計連動爪の部分。左右に動かして露出計に開放F値の伝達も行う

このレンズの最大の特徴は、テッサータイプの光学系を持つGN Auto NIKKOR 45mmF2.8およびAI Nikkor 45mm F2.8Pほどではなくても、非常にコンパクトな外形寸法であること。それでいて球面収差の補正バランスがたくみで、最短撮影距離も0.45メートルと標準的であり、さらに近接撮影時でもあまり大きく画質低下をしないところ。

左はAI Nikkor 50mm f/1.4Sで右がAI Nikkor 50mm F1.8S
どちらも最短撮影距離は0.45メートル

デジタル的な補正なしで歪曲収差が非常に小さいところも好ましい。さらに、1980年当時で定価20,000円とニッコールレンズとしては比較的手に届きやすい価格だった。ただし、国内版の製造期間は長くはなかったようだ。

1984年6月1日版のアクセサリー総合カタログの クローズアップレンズのページのカコミ記事
「倍率による収差変化が少ない」と特記されている。
AI Nikkor 50mm F1.8Sの販売終了後は同じ光学系を持つ
AI AF Nikkor 50mm F1.8Sについてこう書かれていた

『ニッコール千夜一夜物語 第六十夜 AI Nikkor 50mm F1.8S』によれば、この光学系はNikon Lens Series E 50mm F1.8から応用されたそうだ。同シリーズの生産終了後はAI Nikkor 50mm F1.8Sの名前のままで、ピントリングをエンジニアリングプラスチックにしてモノコート化し、最短撮影距離を0.6メートルにしたコストダウンバージョンともいえる輸出版も生産された。この輸出版は逆輸入されて、柑橘系の名前の有名中古カメラ店などの都内の中古カメラ店で新品で販売されていたのを見たことがある。それなりの数が国内でも流通していそうだ。

さらに、この光学系はAFレンズにも応用されて最終的にはAI AF Nikkor 50mm f/1.8Dとして2020(令和2)年まで生産されていた。ちなみに、1970年代の光学系のままAi-S化されたAI Nikkor 50mm f/1.4Sと、さらにAF化されて距離エンコーダーを搭載したDタイプにまでなったAI AF Nikkor 50mm f/1.4Dは、いずれも同一の光学系を持ち、コーティングや硝材の変更こそあれ、ずいぶん長いあいだ光学系の変更はなされなかった。AI Nikkor 50mm F1.8Sの光学系はf/1.4Sほどの「長命」ではなかったものの、それでも1980年から2020年まで製造が続いたレンズに使われたのだから、こちらも立派に長生きしたといっていい。そこそこの性能を持つうえに、製造もしやすかったのだろう。

AI Nikkor 50mm F1.8Sというレンズは私には外観だけではなく、価格的にも決してめだつレンズではないものの、それでいてきちんとした性能を持つというところが好ましい。そう思うようになって、ここ10年ほどはなにかとこのレンズを持ち出すことが多い。

1980年代デザインだからDfに似合う

いろいろなレンズフードを試してみたのだが

本来はAI Nikkor 50mm f/1.4S用のHS-9を常用しているものの

AI Nikkor 50mm F1.8Sと、AI AF Nikkor 50mm f/1.8Dはたいへん残念ながら、強い逆光や斜光線に弱いという欠点がある。だが、私がAI Nikkor 50mm F1.8Sを1990年代に手に入れたときにはすでに製造中止になっていたためか、純正レンズフードのうち、ラバーフードHR-4は存在したものの、このレンズの前モデルであるAI Nikkor 50mm F1.8(末尾にSのつかない全長の長いモデル)用であった金属製でスプリング式のHS-11は当時でも入手しづらかった。

AI Nikkor 50mm F1.8用の スプリング式フードHS-11

当時はいまよりも実店舗はもっと多く存在していたものの、ネットショップやインターネットオークションなどが存在するいまのほうが中古アクセサリー類は入手しやすいかもしれない。

このレンズが強い光に弱いのはフィルムカメラで使っていたころから体感していた。そこで、私は新品で入手もできて流通量が多いAI Nikkor 50mm f/1.4S用のスプリングフードHS-9を使っていた。また、比較的最近HS-11も入手した。だが、これらを使っても装着しただけでは、強い光によるフレアを防止することは残念ながらできない。純正のHR-4を試用したことはないものの、もしあれを使ってもあまり変わらない気がする。

フレアが好きで「ふわふわしたいならどうぞ」。でも、私はフレアがちっとも好きになれない。だから、1990年代より私はこのレンズに「有効でかつ似合うレンズフード」はないものかとずっと考えていた。そのくせ、ドームフードやラバーフードは好きではないし……などと好みがうるさいからでもある。

やっちゃいなよ、そんな偽物なんか

それでもあるとき、アタッチメントサイズが同じ⌀52mmであるキヤノンEF-S24mm F2.8およびEF40mm F2.8 STM用のドーム式レンズフードES-52が似合うという話も聞いた。「ハレ切りの効果がある」とは聞いていない。たんに「外観が似合う」という話を聞いただけだ。

そこでためしに……「キヤノン製ではないES-52そっくりの安価な製品(以下、そっくり製品)」を手に入れて試用した。その結果、大柄で大げさに見えないよさはあるものの、ハレ切りの効果は思っていたように、ほとんど感じさせないこともわかった。

「キヤノン製ではないES-52そっくりの安価な製品(以下、そっくり製品)」
下丸子ガス橋方面や品川Sタワー方面に申し訳ない気持ちのほうが強くなってしまった

さらに、私の手に入れたそっくり製品は裏面の反射防止対策が万全ではなかった。ふと脳裏にこんな声が聞こえたような声がした。

「やっちゃいなよ、そんな偽物なんか」

そこで、「やる」ことにした。つまり、自分でタミヤスプレーTS-6マットブラックを吹いて植毛紙を貼るという、余計な手間をかけた。そこまでしてそっくり製品を使う必然性はみなさんにはないだろうから、ドームフードを好む方には、キヤノン純正のES-52を手に入れることを強くおすすめする。

安価なそっくり製品を安易に買ったことは個人的には倫理的にいまさらながらどうも気がとがめて、下丸子のガス橋北詰方面(キヤノン本社所在地、カメラ写真業界用語ではCanon Inc.より「Inc」と呼ぶ)と品川のキヤノンSタワー(キヤノンマーケティングジャパン本社所在地。業界用語では略して「CMJ」)方面の関係各位のみなさんにはもうしわけなく思う。反省している。

なお、裏面にマットブラックを吹いて植毛紙を貼ってもハレ切りの効果が向上したようにも思えない。そっくり製品だからというわけではなく、24mmにも使用できるように開口部が大きいからだろう。いずれにせよAI Nikkor 50mm F1.8Sのためのものではないので仕方がない。

いちばん確実なのはフードをつけてさらに「ハレ切り」すること

こういう余計な回り道をしながらたどりついたのは、ケラれないならばけっきょくはどんなレンズフードでもいいや……というじつにあれな結論だった。あと、そっくり商品を買うと心理的にダメージをかなり大きな受けること、『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』を観に行こうということも。緊急事態宣言をうけて公開時期がまた延期になっちゃったあれだ。ブライト・ノアってかわいそうだよな。

ええと、ガンダムの件はともかくとして、強い光を受けたときの対策にはレンズフードよりも、このレンズにはきちんとハレ切りをしたほうがむしろ確実だ。ハレ切り用ボードや傘、あるいは黒いパーマセルテープ(シュアーテープ)を使わなくてもいい。せめて左手でもいいから。ぶらさないことと手のひらを画面内に写し込まないように注意しながらハレ切りをするだけで、以下のようにシャドーの描写が大きく変わる。露出も現像処理もどちらも同一でハレ切りの有無だけの差だ。

HS-9をつけてもハレ切りなしで完全逆光で撮るとこういうふうになる
HS-9のうえから左手でハレ切りをするだけでシャドーが引き締まる

結局、このレンズに関しては「これがいい」というレンズフードがいまだに見つけられない。HS-9で代用したまま左手か黒いパーマセルテープでハレ切りをしてフレアを防いでいる。

また、画面内に強い光源がある場合に生ずるゴーストは構図を工夫して画面内の映り込む光源の面積をできるだけ小さくするほかない。白バックのブツ撮りをこのレンズで行ったことはないが、ハレ切りをかなり厳格にする必要があるだろう。そのあたりが億劫で白バックのブツ撮りには私はこのレンズは用いない。

(参考)黒パーマセルでのハレ切りはこんな感じで

コーティングの改良と鏡筒内の反射防止対策を施すことはユーザーレベルでは不可能だから、四隅がケラれない長さで好きなデザインのレンズフードを使い、同時に必ずハレ切りするしかないようだ。こう書くと投げやりのようでじつにつまらない結論だ。この話をどうやって書こうかと考え込んだもの。

でもさ、被写体を立体的に見せる半逆光や完全逆光で撮るのが私は好きなのだ。人物撮影や植物を撮るには、ベタ順光で撮るというのは私にはありえない。だから工夫するほかない。

「やっかいなものだな、生きるというのは」ということか。『閃光のハサウェイ』の小説版は読んでいないけどね。

ちなみに、私有するレンズフードのなかでの効果の有無についていえば、ハッセルブラッドプロフェッショナルシェードがいちばんよかったということはつけ加えておく。あれはしかし、ものすごく大げさに見えるのと、三脚を立てるなどして慎重に調整をしないといけないからさ。

強い光に当たらなかったらほんとうにいい感じ

強い光がレンズに当たらなければこのレンズはいい感じだなあと、最近になって思う。大学生のころはぼけ像が大きいAI Nikkor 50mm f/1.4Sばかりを使っていて、AI Nikkor 50mm F1.8Sはむしろぼけ像を小さくておもしろみがないように感じていた。それが、いまとなってはむしろそのぼけ像の小ささのほうを好ましく思うのだ。やわらかくぼけていく感じがおだやかで心地よい。あまり大きなぼけを作画に用いない撮影が多いからかもしれない。

もちろん、いまとなってはより汎用的でいろいろな状況でも使いやすいのは設計の新しいAF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gだ。さらにいえば、Z 7IIやZ 6IIでNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sを使うことだろうか。夜間に画面内に街灯などを写し込む際などはとくに、デジタルカメラのために設計された新しいレンズであればあるほどゴーストが生じにくい傾向にある。もっとも、上記に示したような完全逆光ではAF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gでもフレアが出ないわけではない。NIKKOR Zレンズでは試したことがないのでわからない。

だから、ハレ切りは新しいレンズであっても必要なことは多い。コーティングと反射防止塗料だけでは抑えられないフレアはあるようだ。構図の調整とあわせて、こういう工夫を身に着けておくと新しい機材を使う際にも役立つ。

逆光の強い光をうまくカットできると「人間の知恵はそんなもんだって、乗り越えられる!」などとガンダムのべつの作品のセリフをいつも思い出すね。それはともかく、ハレ切りはみなさんにもおすすめしたい。「やってみる価値はありますぜ!」(またいってる)

この続きの話はおいおいしていくつもりだ。

※おことわり:文中の旧製品レンズ名表記はそれぞれ販売終了時の表記にしてあります。したがって、表記ルール改定前に販売終了になったAI Nikkor 50mm F1.8Sなどと改定後まで販売されていたAI Nikkor 50mm f/1.4Sなどのレンズで開放F値の表記がことなっているのは、この販売終了時の表記に従ったためです。NikkorとNIKKORの表記の混在もこの表記ルール改定によります。

【撮影データ】
Nikon Df/AI Nikkor 50mm F1.8S/RAW/Adobe Photoshop CC

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