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【レンズフードの話】温故知新。斜光線には蛇腹式レンズフードがいちばん効果的なのではないかという話【だって巳年だし】


短い円筒形のレンズフードでは満足できない

2025年の干支は巳年だということをすっかり忘れていた。年賀状を数年前に出すのをやめて以来、干支を意識することがなくなってしまった。干支を思い出すのは、おまいと("et toi")年齢の話をするときくらいではないか。

それなのに私はあいかわらず、ここのところ何度も書いているように古いレンズを使って斜光線でもフレアをなんとかできないかという試行錯誤を続けている。

そうしていろいろと試していて得た結論がある。それは長さが足りず、適切な内面反射防止対策がなされておらず内側が反射するような円筒形のレンズフードは、レンズの保護にはなるものの、斜光線には有効ではないということ。ときには乱反射を起こしてかえって有害でさえある。

蛇腹式レンズフードのことを思い出した

そこで記事中でもなんどか触れていたけれど、改めて思い出したのが蛇腹式レンズフードのことだ。商品撮影もいろいろとされて造詣が深く、いつもお世話になっている小山壯二さんからも、有害な斜光線による乱反射のカット(ハレ切り)にたいしていちばん効果的なのは、蛇腹式レンズフードだとうかがった。

スチームパンク的かと考えていたけれど 『ブレードランナー』のフォークト・カンプフ検査の装置のようだから、どちらかというとサイバーパンク的なのかも

巳年だもんなあ。蛇腹の話をここでもするか。

蛇腹式レンズフードとは、中判や大判のフィルムカメラで用いられていたもの。本体がアコーディオンのような構造で、革で作られている。そのために使用するレンズの焦点距離や撮影距離に応じて伸縮可能なレンズフードだ。使用しない場合には縮めることができる。

大中判カメラでは別売のアクセサリーとしてそれぞれのシステムに用意されていた。ストロボを用いての人物や商品のスタジオでの撮影、大判カメラによる風景撮影などで機材を大型三脚で固定して撮影する、どちらかというとスタジオでの業務用途向けという印象が私にはあった。

この蛇腹式レンズフードは、伸縮可能であることと反射しにくいという構造を利用している。比較的軽量であるところも特徴のひとつだ。

かつてはマッドマックスなお値段だったのに

シネカメラなどのプロの映像制作分野で用いられる類似したものは、マットボックスと呼ばれているようだ。これもいわば、蛇腹式レンズフードにフレア防止のフリップをとりつけたものだ。

そういう業務用途の品物である蛇腹式レンズフードは、かつては安価なものではなかった。いまでも新品で買えるものはかなりのお値段だ。

シネカメラ用のマットボックスはとくに……ARRIのマットボックスは、なんというかこうマットボックスというよりも『マッドマックス』というか『怒りのデスロード』という感じの、激おこ(古い)になりそうなお値段がするみたい。シネカメラだけに、タヒねということなの!?  いやいやそんなのARRIかよ的な(被害妄想とくだらないダジャレ失礼)。そのためか、映像制作の世界ではレンタルするものだとも聞く。いまのひとはこうしてロッドやフィルター、リグを組み合わせても手に入れられる価格のSmallRigのマットボックスを使うのですかねえ。

ところがスチルカメラの世界では、大中判カメラはデジタル化が進んで業務ユーザーの資金繰りのために売られたのではないか、などと思うといろいろと複雑な気持ちにさせられるけれど……ぴえん……中古の蛇腹式レンズフードが、デッドストックなどのコレクターズアイテムでなければ数千円から流通するようになった。

ハッセルブラッドプロフェッショナルシェードがやってきた

現在ではハッセルブラッドVシステムと呼ばれる、500Cや500C/Mなどのかつての6×6フィルムカメラ用には「プロフェッショナルレンズシェード」と呼ばれる蛇腹式レンズフードが用意されていた。

そのうち、コード40676の「プロフェッショナルレンズシェード⌀50-⌀70」と呼ばれていたものを手に入れた。現行製品ではない。私はハッセルブラッドはくわしくなく、自宅にあるハッセルブラッド関連書籍にはアクセサリーについてはくわしく解説されておらず、Web検索レベルではひっかかりにくいので、正式な製品名なのかわからない。

折りたたみ可能なハッセルブラッドプロフェッショナルレンズシェード⌀50-⌀70
レール部分を伸ばすとこう
蛇腹(ベローズ)部分を伸ばすとこうなる

また買ったの! というお叱りの声が聞こえてくるような気がする。おそらく私の良心である、脳内にいるバーチャル編集長には「貴様経費をかけすぎだろ!」と叱られている。でもさあ、樋口一葉先生(2024年以降は津田梅子先生)のお世話にならないようなお値段だったから……新製品として売られていたころはおそらく4万円くらいしたはずだから、その10分の1だったわけですよ。4万円くらいという根拠は、このあとのモデルがハッセルブラッド・ジャパンに移行する前の日本総代理店だったシュリロトレーディングカンパニーや銀一の価格表にそうあるから。

このフードの最大の特徴は折りたたみが可能で携行しやすいこと。ハッセルブラッドのプロフェッショナルレンズシェードでも、より古いものは折りたたみができない。

ハッセルブラッド用のレンズフードやフィルターは独自のバヨネットで固定する。だが、このプロフェッショナルレンズシェード⌀50-⌀70は付属するゼラチンフィルターホルダーを兼ねたマウントリング(私の手に入れたものはレンズマウンティングリング⌀60というものが付属した)を外すと、市販されている用品メーカー製の⌀77mmのステップアップリングに、ややゆるいもののうまくはめることができると、写真家で各種用品の販売も行っている中居中也さんのブログの2015年1月20日づけ記事にあって、興味を持った。いいことをご教示いただきありがとうございます。

そこで、私も店頭で安価なプロフェッショナルレンズシェード⌀50-⌀70を見つけたので試してみると……たしかに市販のステップアップリングへ交換が可能だった。転用可能であることがわかったので私も手に入れた。だからこれも私のオリジナルではなく、諸先輩方のまねです。

上下逆さまに装着するほうが使いやすい。 立木義浩先生がハッセルブラッドでこうして上下逆さまに使っているようすをとらえた写真も見た。 やっぱり諸先輩方のまねです

古いレンズもこれでバッチリ!

使用感は思っていたよりもずっと快適だった。まず軽いのがいい。長さを慎重に調整を行ってしまえば手持ち撮影でも使用可能だ。そして話に聞いていたように、円筒形の短いレンズフードに比べたらずっと遮光効果が高い。状況ごとにぎりぎりの長さに調節することができるので、純正フードよりも長くして使ってもまだフレアを切ることができない状況でも対応できる。もちろん、さまざまな焦点距離に対しての汎用性も高いので、いろいろなレンズに使うことができるのも便利だ。

35mm判のアスペクトに合わせたマスクを自作した

ただし、サードパーティ製ステップアップリング⌀77mmの外周にはパーマセルテープを貼り、さらに使用時にはステップアップリングとプロフェッショナルレンズシェードの双方にかかるようにテープを貼ったほうが安全だ。ケンコー・トキナー製でもマルミ製でも、パーマセルテープを1周半ほど、どちらにも口径をかさ増しする必要があった。

AI Nikkor 85mm F2Sをフードなしで撮影。太陽は画面左
同じ状況でフードを装着するとこうなる

そして専用のマウントリングとはことなり、汎用のステップアップリングにはネジ固定用の穴や溝がないので強固に固定されない。だから、少しぶつけるとレンズシェードが外れやすい。金属加工ができるひとなら、ステップアップリング側に溝を彫るか穴を開ければ、しっかりとレンズシェードに固定できるようになるのではないかと思う。そのうちやってみるかな。レンズシェード側の固定ネジが当たる場所に、電動ドリルで軽く穴をあける、あるいは糸鋸で切込みを入れればいいのだろうとは思う。

細かい作業だから手元が見づらいとおっくうで「作業手順の事前想定」ばかりして、取りかかってはいないが。老眼ってやーねー。

もともと付属するハッセルブラッドレンズの先端バヨネットに接続するレンズマウンティングリングに、⌀77mmのステップアップリングやフィルター枠をエポキシ接着剤などでがっちりと接着してしまうというのも、ひとつの解決方向かもしれない。私はそうすると「原型に戻せなくなること」がいやで、その方法をとらなかった。レンズマウンティングリングだけで買おうと思うと数千円の価格がつけられているのだもの。泣けるぜ。

なお、より新しいプロフェッショナルレンズシェードは専用のレンズマウンティングリングが変更されて形状がことなるようなので、どういうふうにすればハッセルブラッド以外のレンズに転用できるのか私にはわからない。

AI Nikkor 85mm F2S
AI Nikkor 85mm F2S。これはレンズフードはなくてもいい撮影

見た目が少々クラシックなのもおもしろく思えてきた。Nikon Dfとマニュアルフォーカスレンズ、あるいはSony α7IIやPanasonic LUMIX G100Dに各種オールドレンズをつけるような、ちょっぴり古いものを使っている自分には似合うかもしれない。それでいて、遮光効果が高いというのはなかなか痛快だ。まさに温故知新ですな。むかしからの知恵にはいまでも役立つものもあるわけ。

LUMIX G100DにGODOX Lux Seniorとコニカマーケティング時代の復刻ティルトール三脚と
組み合わせると、スチームパンクっぽくなると思わない?

斜光線に弱いことがいやでずっと使っていないほかのレンズにも、このフードを使ってきちんとハレ切りをするとどうなるだろうかという夢想も広がる。夜景撮影にも使えるだろう。古いレンズでも最新レンズでも、ステップアップリングを各種用意しておけば使える汎用性の高さがいい。

もっとも、レンズ前面のフィルター装着部分を利用しているので、古いレンジファインダー用のレンズなどでフィルター装着部分で絞り操作をするものには使用できない。雨傘を使ったハレ切りや、円筒形のレンズフードの正面四隅に黒いパーマセルテープを貼る方法と必要に応じて使いわけていこう。

国産メーカー製品は作りがいい

国産蛇腹式レンズフードはつくりがいいよ

蛇腹式レンズフードは白バックのブツ撮りをするさいにも用いるようにした。シャドウ部分がきちんとしまるほうが露出決定やレタッチもしやすい。

じつはさらにお安いマミヤRZ67およびRB67用の「蛇ばらフード」(G2)というものも手に入れましてね。紫式部先生おひとりくらいだったので、つい。なお、かつてのマミヤ・オーピー時代の正式名称では「蛇腹」ではなく「蛇ばら」と「ひらく」(ひらがなで表記する)みたいですよ。こちらは折りたたみはできずもう少し重みもあるので、自宅でのブツ撮り用にしている。ハッセルブラッドプロフェッショナルレンズシェードよりも作りがしっかりしていて仕上げもきれいだ。蛇腹の伸縮もねじで微調整がしやすい。こちらは付属のレンズアダプターを使用したまま⌀77mmのステップアップリングを介せばいい。しっかりと固定できる。

さらに、付属のレンズアダプター部分にはシートフィルター用スリットもあるので、それも何かと役立ちそうだ。ハッセルブラッドプロシェードのレンズマウンティングリングにシートフィルター用スリットはあるが、そのリングを外してしまうので。

中判カメラのアクセサリーは35mm判にも転用しやすい。自分で試してはいないけれど、マミヤでも645用はさらに安価だ。ブロニカ、富士フイルムのカメラ用などにも蛇腹式レンズフードがある。興味のある方はお財布と相談しながらお好きなものを使うといいと思う。国産のものならば、樋口一葉先生(いまなら津田梅子先生)どころか、野口英世博士(いまなら北里柴三郎博士)数人分程度で入手できることがある。

ここ数年はそうして作業や家事にあきると、望遠レンズ用に35mm判のアスペクト比に切り抜いたマスクを作ったり、ステップアップリングにタミヤカラーのマットブラックを吹き、さらに植毛紙を切り貼りして、それをレンズに組み合わせて試写しながら過ごしている。これで古いレンズでも斜光線への備えはばっちりだ……! 

「私のレンズフードは古臭く見えるか? 私のレンズフードは大げさか? むだに見えるか? 使えなそうに見えるか? ばかばかしく見えるか?」「ちがうちがうちがうちがう。私のレンズフードは限りなく完璧に近いものだ」などとかの鬼舞辻無惨先生のセリフももじって引用しておきます。万人におすすめできるわけではないけれどね。「レンズフードなんてぶっちゃけ不要でしょう?」などというひとにも、もちろんおすすめしない。逆光で撮ったことがないのではないかと思う。光の向きを理解できていないように思えるし。

村上春樹先生ふうにいえば「完璧なレンズフードなんて存在しない。完璧なレンズが存在しないようにね」というところかな。

というあいかわらずあれな感じで「フード病」というよりも、最近の言い方でいうところの「レンズフードの鬼」な感じでエントリーを終えます。これで成仏するから痛ましいのは生温かく見守ってあげて。ご愛読ありがとうございました。みなさんと、もちろん私の社会生活と趣味生活が2025年にはさらに充実しますように、切にお祈りいたします。

【おことわり】
本記事はブログに掲載したエントリーを加筆したものです。また、有料記事に設定していますが、無料で全文をお読みいただけます。もしお気に召しましたら、投げ銭のつもりでお支払いいただけますと、とてもうれしいです。

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