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【ニッコールレンズのお話】Nikkor-S Auto 55mm F1.2Sを持って薄暮の町を歩くことが、いまごろ楽しくてたまらなくなったという話
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Nikkor-S Auto 55mm F1.2のおもしろさを思い出した
先日から何回かNikkor-S Auto 55mm F1.2(1965年)のことを書いている。いま相当気に入っているから、ということにつきる。
コシナからVoigtländerレンズシリーズの新製品として、一眼レフ用(ニコンFマウント)のNOKTON 55mm F1.2 SL IIsが発売された。NOKTONのデザインコンセプトの、おそらくはきっかけであろうNikkor-S Auto 55mm F1.2の存在を思い出して、使ってみようと思い立った。
Nikkor-S Auto 55mm F1.2は1978年にAI Nikkor 50mm F1.2が登場するまでに、13年ものあいだ製造されていたようだ。何度かモデルチェンジを重ねてAI化もなされている。そのせいか、F1.2と大口径であっても、AI Noct Nikkor 58mm F1.2または同Sなどとはことなり、少し前まではそう珍しいレンズではなかった。20世紀の終わりごろには、このレンズはかなり安価で中古市場に出回っていた。私自身が購入したことがあるし、Nikon F2ボディとともにゆずられたことも。
いまは"Nippon Kogaku"と刻印のあるモノコートの古い個体が気に入っていて、それをずっと所有している。
20世紀の終わりにNikkor-S Auto 55mm F1.2を手に入れたころは、粋がってNikon FやF2にモノクロフィルムを入れて持ち歩いていた。印画紙用現像液D72を希釈してやや高温でフィルムの現像に使い、意図的に粗粒子現像をしていた。1960年代から1970年代の手法だ。そうやってモノクロフィルムでNikkor-S Auto 55mm F1.2を用いていて、絞り開放時のハロのある描写などに気づいていた。F2.8より絞るとハロが消えて、F5.6よりも大きな絞り値を選ぶと高精細な描写になることにも。
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Dfまでは純正デジタル一眼レフボディでは使えなかった
私の持っている個体はAI改造がなされていない原型だ。Nikon Photomic FTNやF2 Photomicなどの従来方式ボディではないと、開放測光で露出計を連動させることができない。AI方式の露出計連動機構を備えたニコン純正ボディでは、非AIレンズは基本的には装着自体もできない。ボディ側のAI方式連動機構が可倒式である必要がある。
D40などのAPS-Cサイズ(DXフォーマット)のデジタル一眼レフでAI方式連動機構を持たないボディに、非AIレンズを装着している方もいるのは知っている。だが、私はあれをやりたくはなかった。そして、可倒式AI連動機構を持つデジタル一眼レフボディは、Dfまで存在しなかった。だから、私の非AI方式のままのNikkor-S Auto 55mm F1.2はニコン純正デジタル一眼レフではDfでしか露出計を連動させて使用できない。それでこのレンズの存在を忘れていた。
マウントアダプターを使えば、露出計の機械連動は関係がない。だから各社ミラーレス機で使用できる。だがもともと、古いレンズを持っていてもマウントアダプター遊びを私はほとんどしなかった。いまひとつ気が乗らなくて「試写」レベルでしか使わなかった。
理由を説明し難いのだが、私自身は35mmフルサイズで使いたかったのと、レンズとボディの「似合っている」組み合わせが私には思いつかなかったから。組み合わせた外観も私は気にしたいのだ。
D2XやD7000、D7200にAIニッコールレンズとはときどき組み合わせていた。だが、頻度はそう高くはない。D2Xには意外と似合うし使いやすかった。でも、ほかのボディにはあまり似合う感じもしなくて。D2X以外ではファインダーもとくに見やすいわけでもないから、という理由もあるかな。
「デモデモダッテ」という感じで、いろいろと口うるさくてほんとうにごめんなさい。もちろんどれも「個人の感想です」ということにつきるのだが。
だからNikkor-S Auto 55mm F1.2も、Nikon Df登場時に少し試しただけだった。そのころは「ある程度絞ってきっちりと写す」ことばかりに注意を払っていたから、古いレンズで撮りたいと思わなかったのかもしれない。
ほとんどの場合で、古いレンズでわざわざ撮る必然性を自分には感じなかったのだもの。
なんらかの道具や技法を用いるには、確固たる理由が私にはほしい。それを私は「必然性」と呼んでいる。
Dfボディと組んだときのバランスのよさが気に入った
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Dfも遅ればせながら自腹で購入して数年経った。最近になって、絞り開放での写真ももっとうまく撮れるようになりたいと思いたった。いろいろな表現手法を身につけたいという思いもある。「マニュアルフォーカスレンズを積極的に使ってみたい」と思ってDfを買ったのだし。
とはいえ、いまふうのハイキーでフレアのある写真ではない。ローキーにするほうが好きで、あいかわらずの「おじさん写真」だ。波打ち際をワンピースを着た若い女性が裸足で歩くようすを逆光でフレアを入れて写したり、それをWB:4,000Kくらいにして青みを強めてハイキーに現像する、という写真ではないものね。
Nikkor-S Auto 55mm F1.2をDfにためしに組み合わせたところ、大きさや重量バランスも自分には合うように感じられた。FやF2では、モータードライブがないとレンズ側がやや大きくてバランスがよろしくはなかった。Dfで重量バランスがよくなるのはおもしろい。
そうして夕方の町に持ち出して撮ってみて、絞り開放でのハロのある描写がいまさらながらにおもしろくなってしまった。
私のDfボディはファインダースクリーンを私製改造したものだ。台湾のFocusing screen.comで売られていた、Nikon F6用交換用スクリーンを加工したものに交換してある。正確にいうと、自分では交換できる自信がなくて、手先が器用な友人にお願いして交換してもらった。
いまひさしぶりに当該セラーのサイトにアクセスしたら、Df用の種類はさすがに在庫が減っているね。F6用アクセサリーも製造はされていないはずだし。それはともかく、スクリーン交換をした私のDfは、原型のDfよりもファインダースクリーンでのピント合わせはしやすいはずだ。だが、老眼の進んでいる私には、F6用スクリーンを入れていても、大口径レンズを絞り開放でファインダーだけでピント合わせが正確にできる自信がない。
そこはもう、ライブビューで拡大表示させて老眼鏡をかけてピント合わせをするほかない。慣れれば、そういう撮影スタイルでも困らない。
拡大表示がファインダーでできるミラーレスボディで撮るのでも、もちろんかまわない。ボディ内手ぶれ補正機構の搭載されている機種ならば、より確実だ。だが私は「Dfボディと組み合わせた姿」が好きだから、その好きな組み合わせで撮りたい。不便さも合わせて遊びたいということだ。
オタクってしょうもないですね……と笑うならば笑いたまえ。好きという気持ちが趣味にはいちばん大切なんだぜ。しかも、業務の写真ではない。だからこそ、頭を使って楽しみたいのだ。
絞り値による描写の変化をうまく用いたい
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Nikkor-S Auto 55mm F1.2は何度も書いているように、絞り値による描写の変化がとても大きいレンズだ。現代のレンズではこういうレンズはなかなかない。絞り開放でハイライトの周辺ににじんで生じるハロは、なにかを写すとやわらかいにじみになる。夕方の町中など微光量下で用いるのが好きだ。明るいところだと私にはにじみすぎるから、F2.8まで絞る。
絞り開放では生じやすい色収差は好きではない。だからRAW現像時にできるだけ消す。AI方式のマルチコートのなされたニッコールレンズに比べると、やや青みがかった発色をする。でも薄暮での撮影では、青みはそのままにすることが多い。
クラシックな被写体を選んで撮ってみると、情緒のようななにかが写せるような気がしている。単なる思い込みかもしれないが、そういう思い込みもときにはだいじだ。
こういう、情緒のようななにかが「写せるかもしれないと思わせる」道具を持って、人出の少なくなった夕方の町を歩いていくのが楽しい。暮れなずむ町の美しさに心拍数も上がる。こういうシーンこそ撮っていておもしろいと思うのだ。雨の日もすごくいい。もし写真にうまくできなくても、目にしているだけでも楽しい。
現代のレンズでRAW現像時に明瞭度を落として撮影しても、もしかしたら似た感じになるのかもしれない。だが、私は撮影しながら「きれいににじむなあ」と考えてファインダーや背面モニターを見るのが好きだ。だから、撮影後に明瞭度を大きく変える手法は、趣味では自分では行いたくはない。
5月にこのレンズを重点的に使ってみて、ほんの少しだけ特徴がつかめたような気もする。でも、もっと使い込んでみないとわからないな。Dfボディの描写の特徴を「なんとなくつかんだ」のも、使い始めて4年も経た最近のことだ。いまでも「メニューにこういう操作項目があったの!」と今日も驚かされているくらいだ。なにかを「納得」するのに私は時間を必要とする人間なのだろう。
だから、Nikkor-s Auto 55mm F1.2についても、まだわかっていないところがたくさんある。もしかしたらどんなものごとでも同じか。知識が深くなればなるほど「必ずしも簡単にいい切ることができない」ことが増えるものだ。だからこれらは「現時点での私の理解した特徴」ということだ。
【撮影データ】
Nikon Df/Nikkor-S Auto 55mm F1.2/RAW/Adobe Photoshop CC
【おことわり】
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