傷をなぞる
「他の人だったら、傷付かなかったかもしれない」
「恋人の方が辛い目に遭っているのに」
でも、そんなものは本当は関係ないのだと思う。
辛い過去をたくましく乗り越えてきたと語る彼らの顔には「手応え」というものを感じる。
また、それに伴う自信を。
眩しく感じる。
でも、私にはそういう感覚を持つ日は来ないんじゃないかと思う。
渦中に入らず、飲み込まれず、ただ見ている、という感覚がずっと付きまとう。
祖母が泣いているのを。
青年の、ずる剥けになった膝から白い骨が見えているのを。
私は静かに見ていた。まるでそれが正しいのだというように。
常に一歩引いているような。
でも、うら淋しいこの感覚にこそ「私」が集約されているのかもしれない。
その自分を認めなければ自分を生きたことにはならないと。
だからそっとなぞるのだ。