海を見に
恋人の実家に帰った時は、海を見にいく。
いつも引き寄せられるように、自然と足を運ぶようになっていた。
今月帰った時は、いつも団地の部屋で出迎えてくれる彼のお母さんの姿はなかった。
体を悪くし施設に移ることになったのだ。
だから私たちは、突然人が居なくなってしまったようなその部屋を片付け、手続き諸々を済ませるなどしていた。
あくせく動いている間、雨予報が続いていたが、最終日になって突然雨がやんだ。
それで私たちはいつものように海へ向かった。
新潟のこの海はなんだろう。
限りなく人がいない海辺に、哀しさが薄く何層にも沈澱しているような。
でもそれは意外にも、冷たく痛いものではなく、ぬるく肌触りの良いような不思議な心地なのだ。
雲が太陽を薄く隠し、でもその輪郭だけがぼんやりと穏やかな海に浮かんでいる様子は、今まで見たどの海よりも好きかもしれない、と思った。
私たちは、そうやって夕陽が沈むまでずっと、砂浜に腰を下ろしながら海と空の移ろいを見ていた。
帰路に着く時、少しだけ心が軽くなっているのを感じた。