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【はがきサイズの即興物語】テーマ:上乗せ

国語辞典の中段から三番目、選ばれた言葉は、「上乗せ」です。

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いや、100円て。
俺はしがないポストカード。欲のない画家に作られました。
おじさんは、これを言い値で買うという。画家のご主人は、じゃあ100円でとにっこり笑った。

いや、ご主人よ。俺は知っているぞ。あんたの使った画材や何年も売れずに家や妻を手放した苦労とその技術を。
決して100円ではねえだろう。安けりゃ喜ぶってわけじゃねえぞ。

おじさんを見てみろよ。目まんまるにして、高そうな腕時計をいじっている。

「あなたが人の幸せを願って、癒しになるような絵を売って細々と暮らしているのは、この町で有名な話ですよ。僕はそんなあなたに対等なお金を払って評価したいと思っている。この気持ちは、受け取ってもらえないのですか?」

「もちろん受け取っていますよ。その気持ちをね。ただ、私の絵は魂がこもるといわれている。おとぎ話といわれるかもしれませんが、安く評価すればするほど、絵は怒り輝きを生むのですよ。逆に、高く評価するほど、絵はおごり色彩が褪せていく。あまのじゃくなやつですね。別れた妻にそっくりですよ。ほら、この勝気な目をごらんなさい。」

俺はご主人をにらみつけた。美しい女の姿をしたおれは、頭の中で札束を数えていた。

Fin

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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