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小澤征爾×村上春樹「小澤征爾さんと、音楽について話をする」

2024年2月6日、小澤征爾さんがお亡くなりになられました。
世界のクラシック音楽界に偉大な業績を残された稀代のマエストロ、小澤征爾さん。
僕もこの方の音楽やその生き様、そして人格に大いに魅せられたたくさんの人の一人であり、そのご逝去はとても信じられるものではありません。

訃報のニュースをネットで読み漁り、マエストロの作品を聴き、そして、この本を手にしました。
この本は、小澤さんが食道がんの治療をし、そのリハビリのために仕事をキャンセルしていた時期から始まった村上さんとの対談集です。

出版社が企画を持ってきて……というものではなく、小澤さんの娘さん(征良さん)と村上さんの奥さんとが仲良しということから知り合ったお二人、知り合ってからしばらく音楽の話はしなかったのですが、ある時、小澤家が村上家を訪問した時、村上さんがレコードライブラリを小澤さんにお見せした時、ようやくにして音楽の話が始まったそうです。

その時、小澤さんの貴重な話をこのまま記録に残さないのはもったいないということで、村上さんが対談という形で記録することになったということです。

対談の機会は計6回、村上さんの家でだったり、ホノルルだったり、スイスだったりとさまざまな場所で行われています。

それぞれのスケジュールの都合もあって回数を分け、場所も違えてということでしたが(ホノルルの時は、東日本大震災直後で二人とも帰国できなかったという事情があった)、ラストのスイスの場面は小澤さんが世界の若くて優秀な音楽家たちを集めて行っている音楽アカデミーに村上さんが誘われて行われています。

いわゆる出来合いの対談ではなく、小澤さんの回想記でもあり、小澤さんの音楽に対するQ&Aでもあり、二人による音楽論の開陳でもあり、アカデミーの見学記でもあり、全く退屈のしない内容です。

世界の交響楽団やグールドなどの著名な演奏家たちの話、そして、偉大な作曲家たちの作品への想いが続々と出てきます。
特に、オペラやマーラーについての内容は実に濃いものとなっています。

もちろん、指揮者や指揮についての小澤さんの見識についても詳しく記されています。

ネタバレは避けたいところですが、若き日の小澤征爾がどれだけ世界の超一流のマエストロに好かれた(贔屓にされた)という経験談がたくさん載っています。

英語が得意ではなかったと悔やむ小澤さんですが、カラヤン、バーンスタインはじめ、たくさんの方々の支援を受けています。

その理由は、ひとえに彼のハングリーでありながらも人懐っこいキャラクターのお陰なのでしょう。
もちろん、素晴らしい才能があったからでしょうけれど。

本当に深く話し合っているように感じられます。ここまで深く話ができるのは、やはり村上さんのクラシック音楽についての高い見識によるものだと思います。
読んでいてこちらが呆れるほど知識があり、理解されています。
途中、ある演奏家(ツィマーマン)のレコードについて小澤さんが質問し、村上さんが答えるというシーンがありました。

小澤さんが「あとがきです」の冒頭で「音楽好きの友人はたくさんいるけれど、春樹さんはまあ云ってみれば、正気の範囲をはるかに超えている」と記されています。
小澤さんが知らないことまで知っているとさえ書かれています。

本当にマエストロの偉大な歴史が遺されて良かったと思っています。お二人に感謝したいです。

合掌

【追伸】
このあと「『小澤征爾さんと、音楽について話をする』で聴いたクラシック」(ユニバーサル)という三枚組アルバムが出ていることを知り、購入しました。

当然ですが、聞きながら読むとよりよく内容が理解できますね。

ブラームスのシンフォニーでホルン2人で分担して一つの息継ぎのない音を出しているとか……聴いても判断できませんが(笑)

20240219

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