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三上延「同潤会代官山アパートメント」

とても良い小説でした。
作者の優しい文章がとても似つかわしいストーリーでした。
最後にはうるっと来てしまいました。

代官山アパートにおける、八重という女性から始まる四代にわたる一家の物語です。

八重と、関東大震災で亡くした彼女の妹愛子の元フィアンセである竹井光生との新婚生活が新築の代官山アパートで始まります。
それから時系列に代々の家族の姿が描かれていきます。

それぞれの掌編(八編あります)は史実に則って書かれています(巻末に記された参考資料が膨大)が、この史実は背景に使うくらいで、本筋にあまり関係してません。
初めのうちは、そのあしらい方に物足りなさを感じましたが、逆に史実をどっさり書き込んだら重くなりすぎて、この作品の爽やかなタッチが消えてしまうとも思いました。だから、このくらいでちょうど良かったのかもしれません。

八篇それぞれ主人公が入れ替わりますが、設定自体は変わらないので、それまでの過去の出来事が伏線としてうまく生かされており、唸らされます。
全てのストーリーに無理はないし、各編とも読後感がとてもいいです。

集大成ともなる最後の二編はとても感動的でした。
自分も今の歳になってきて、この作品のように自分の中にそれなりに歴史が積まれています。
それがもう遠くないうちに精算される時が来るのだなと気づかされました。

周囲に迷惑のかからぬよう、静かに終えられればいい、と思っています。それなら、悪くない終わり方だと思っています。

私は大学が渋谷にあったのですが、住まいが三茶でした。
だから、渋谷駅周辺をうろうろすることなく地下を電車で通過することが多く、代官山を歩くことは全くありませんでした。だから、このアパートの存在も知りませんでした(表参道のそれは何度も目にしていますが)。
今から思うと、少し惜しい気もしています。

【追記】
「ホワイト・アルバム
一九六八」の編はとある小説にとても似てて笑えました。

https://note.com/kaoru906/n/nf29259a4dcf9?sub_rt=share_b

20231006


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