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ダブリンの鐘つきカビ人間

ものすごく完成された、めちゃくちゃ面白いお話しだった!
霧の夜に、森の中にぽつんとあるおうちに、カップルが迷い込むところから始まるの。快く迎え入れてくれたおじいさんに、ふと霧の中で聞いた歌のことを話すと、問わず語りに昔ここが街だったこと、自分が市長だったことを話してくれる。

この市長が松尾貴史さんなんだけど、声が深くて、松尾さんに誘われて物語の世界の入り口に立つのがとっても心地いい。そしてこの霧の中の曲がケルティックな感じででも日本の童謡みたいで物語の色や匂いをそのまま映し出してるみたい。

そこから市長が語る物語が始まるの。カップルがいる現在の現実世界と、市長が語る物語、二重構造の物語が始まるの。シェイクスピアの時代から人類は舞台上でこれからお芝居が始まりますって始まるのが大好きなのよ!

市長が語る物語はこう。あるとき街を謎の疫病が襲って、体が木になって小鳥の止まり木になっちゃったり、目が顔くらい大きくなって遠くの娘の着替えは見えるけど手前のものが見えなくなっちゃったり、電気がビリビリ流れたり。口から、本心と逆の言葉しか出てこなくなっちゃったり。みんながおかしな病にかかっちゃったの。

今まで人を騙してばかりいた絶世の美男子はその病で、外見はみんなが嫌うカビだらけのカビ人間、内面は純粋無垢になっちゃった。中と外が入れ替わったみたい。

外見のせいでみんなに嫌われてもカビ人間は村人のために毎日教会の鐘つきをするの。そんな、鐘つきカビ人間と、奇病で思ってることと真逆のことしか話せなくなっちゃった女の子、おさえちゃんが出会う。

最初はカビ人間に「近くに来て(来ないで)」「あなたは美しい(醜い)」って褒め言葉や愛の言葉しか出てこなかったおさえちゃんが、カビ人間のことを好きになり始めて、「死んじまえ(死なないで)」「大嫌い(大好き)」っていうようになる。カビ人間は、自分を唯一褒めてくれたおさえちゃんを好きになるんだけど、でもそれって本心と逆を言ってる時の褒め言葉ってことで・・・えええ、切ないよう!

病気もキテレツで面白いし、いっぱい面白いくすぐりどころがあって笑っちゃうし、大好きなのに「死んじまえ」って口から出るのもすっとんきょうで笑いが出るんだけど、笑いながら泣いちゃうの。

村人が秀逸で、電気人間の工藤広夢さんはずっとビリビリしてるし、噂好きの竹内将人さんは天使の羽背負って一生カッコつけてるし、目玉大きくなっちゃった安福さんの関西のおじちゃん感最高。

疫病を終わらせるために奇跡を起こす剣を手に入れようと、戦士の入野自由さんが変な馬と悪戦苦闘するのも笑っちゃうんだけど、その剣をめぐる物語の結末もすっごく心を抉るの。入野自由さんって、こういう残念な役をした時の安定感が半端じゃないよね。物語をしっかり締める安心と安定の技術。歌うっま!

この剣は、二重構造の外の箱、物語の外の、迷い込んだカップルとの関係でも大きなキーになるんだけど、なんか、こういう最後のどんでん返し、ほんっと、好き!お芝居が好きな人って、こういうことされたくてみにきてるでしょ?

二重構造がこんなに上手に使われてて、こんなに鮮やかな終わり方するお芝居、他に知らない!

これスズナリで見て、「うわやられたあ」って言いたかったな。
と思ったら、母はスズナリで見てた。悔しいわあ。

TravisJapanの七五三掛さんのカビ人間は、無垢で悪意を知らない感じがピッタリだった。あと、体が効く人のお芝居って好きよ。吉澤さんも好演されてた!もともと遊気舎が上演してて、今回も松尾貴史さんとか梅雀さんとかコングさんが作ってる独特の雰囲気(スズナリのあのギシギシなる階段を上がって言って見るお芝居の雰囲気)はそのままに、七五三掛さん吉澤さんのフレッシュなお芝居と、若いながらも経験値が豊富で達者な入野自由さん竹内将人さん、安田さん安福さん工藤さんのがっしりした屋台骨と、いつだって私たちを誇らしくさせる俺たちの加藤梨里香、どんどん上手になる井原六花ちゃんがいて、完璧なバランス。

舞台美術は乗峯雅寛さん。トンネルのような入り口、階段、空間をねじねじに繋げる、だけどシンプルなセットが、盆が回るごとに違う世界に誘ってくれる。

物語の柱になっている奇妙な童歌を中心に、歌が作る雰囲気の力も大きくて、絶対ミュージカルにするの大正解すぎるよう!よかった!!
ウォーリーさんの、心の描写が丁寧な演出の雰囲気が作品の背骨になってて、なんか、ブロードウェイウェストエンドとも違う、韓国ともまた違う、日本独自の特別な、素敵なダークファンタジーだった。いい意味でちょっと湿度があると言うかね。これ、日本のミュージカルのカラーとして打ち出せるんじゃないかって思ったの。他のどことも違って特別で素敵。海外の人たちにも見せてあげたいな。
誰か偉いひとー!海外の人にも見せてあげて!!


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