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モーリス・ルヴェルを図書館で借りてきた

裏表紙の紹介文が難しい漢語だらけで読めない、とTwitter(X)で話題になっていたモーリス・ルヴェルの『夜鳥』(田中早苗訳 創元推理文庫 2003年)。在庫切れで買えないので、地元の図書館へ行きました。

紹介文を解読してみたまとめはこちら。どうやらtogetterにまとめてくれた人もいるらしい。そちらのまとめは当番ノータッチです。気付いたらまとめられていました。

地元図書館にも『夜鳥』はなし。しかし、蔵書検索で他のルヴェル作品が引っ掛かったので2冊借りてきました。他は貸出中だったわ……

白水Uブックス『地獄の門』(中川潤 編訳 白水社 2022年)と岩波少年文庫『最初の舞踏会』(平岡敦 編訳 岩波書店 2014年)。……岩波少年文庫?! 岩波少年文庫でモーリス・ルヴェルが読めるの??

びっくりして、まず『最初の舞踏会』から読みはじめました。なるほどフランス人またはフランス系の作者が書いたホラー短編15編のアンソロジーにルヴェルの作品が1本入っているのね。これが目次。ペローの『青ひげ』から始まってメリメの『イールの女神像』まで。

あら、これ人選が豪華ねえ……『コーヒー沸かし』はバレエ『ジゼル』の台本を書いたゴーティエ。ミュージカルにもなったエーメの『壁抜け男』、モーパッサン(代表作『脂肪の塊』)にゾラ(代表作『ナナ』)、ルブラン(代表作『怪盗紳士ルパン』)、メリメ(代表作『カルメン』)。表題作『最初の舞踏会』はレオノーラ・キャリントン。シュルレアリスムの画家であり小説家。当番は「レメディオス・バロの友達」という形で知っている人物、キャリントン。

ルヴェルの『空き家』はこのホラー短編集の中では、またルヴェルの作品としてもマイルドなタッチの小品。怖いというより、ちょっとおかしみを感じる。空き巣に入った小悪党の癖に最後、ちょっとしたことで恐怖に駆られて逃げだす主人公の様子はそうね、漫画化するなら初期の画風(※現在の画風)の魔夜峰央で見たいなあという感じ。『パタリロ!』の初期単行本に、本編とは無関係に挟まっている読切ホラー短編で、こんな話を読んだ気がするという「ない記憶」がよみがえってくる。相性いいと思うんですよ、初期魔夜峰央の、あの黒ベタが美しい緻密な絵柄とモーリス・ルヴェルの『空き家』。最後「うわああああ!」と逃げていく空き巣のコマをもう既に見た気さえする。

この本の収穫は、各作品につけられた扉の著者紹介。ルヴェルの紹介はこれ。

ほら、ほら! 「パリで医学を学んだあと、病院につとめながら」と記載されている! 「仁術の士モーリス・ルヴェルは」を「医師であったモーリス・ルヴェルは」と当番が訳したらTwitter上で「英語版Wikipediaにも仏語版Wikipediaにもルヴェルが医師であったという記述がない」とご指摘を頂戴して、当番側でも白水社ホームページの「パリで医学を学び」までしか情報を見つけられなかったので「医学の徒であったモーリス・ルヴェルは」と訂正情報をTwitterとnoteへ追記したわけですが。ネットに載っていない情報、紙の本にあるじゃないですか……ほら……!

ところで岩波少年文庫ホラー短編集『最初の舞踏会』、中には割と艶っぽい描写のある話があり「えっえっ、これ小学校高学年が読んじゃっていいやつ? いわゆる『図書館で借りられるタイプのちょっとえっちな本』枠??」とちょっとソワソワしました。念のため裏表紙を見たら「対象:中学生以上」とありました。なんだ、中学生だったらまあこのくらいの描写があってもいいわ(というくらいの内容です。映画で言うところのPG12くらい)。岩波少年文庫って、対象が中学生以上と指定される本もあったんですねえ……自分が岩波少年文庫の熱心な読者だった頃の感覚で、なんとなくどの本も小学校高学年あたりまでが対象だと思っていました。

白水Uブックス『地獄の門』。収録作品数は36。巻末の編訳者あとがきによれば、創元推理文庫『夜鳥』が1928年春陽堂刊行の『夜鳥』を文庫化したものであるのに対し、白水Uブックスの『地獄の門』収録作はすべて21世紀に入ってから訳し下ろされたものだそうです。まるっきり21世紀の日本語で、辞書を引かずに読むことができます。すべて短編なので、移動中に1本2本、切れ切れに読んでも問題ないです。いま当番は29本目『誰が呼んでいる?』を読みはじめたところです。

先に編訳者あとがきから読みはじめての収穫はこの略年譜。

1898年 医学を学ぶ(ルヴェル23歳)
1903年 医学を離れる(ルヴェル28歳)
1914年 第一次世界大戦に軍医補として参加(ルヴェル39歳)

やっぱり医学博士ではあったんじゃないのかな? ルヴェル。もっとも、「病院に勤務してはいたが医師としてではない」「軍医補として従軍したが医学博士の資格は持っていない(軍医補に医学の博士号は必要ではなかった)」という可能性だってまだあるわけですが。

36編中29本目まで読んだ時点では、『最後の授業』がビターで好きです。これは漫画化するなら魔夜峰央ではなくて萩尾望都かなあという感じ。初期の萩尾望都感。全部読み終えたらまたこの記事に追記します。

そして戦前の訳を現代仮名遣いに直したものであるらしい創元推理文庫の『夜鳥』、ますます手に入れたくなりました。


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