夜気にあたる
梅雨明けまでは、肘と膝を出すなという。
夜は窓を開けて寝ると、夏でも冷たい空気に当たって風邪をひくという。
昔の人の、季節の言い伝え。
気候変動の中で、東京の夏は灼熱となり、そんなことはなくなってしまったのだと思う。
けれど、それでも。
夜の空気は昼の空気と、光と気温が違うだけじゃない。
なにか、「よからぬ」とされたものが漂っている。
よからぬものとは、目には見えないままに体を毒すもの。
ウイルス、雑菌、今でいうならそういうもの。
昔はそれをひっくるめて病、邪、鬼、魔といった言葉で呼んだ。
よからぬものを取り除くのは、光であり、熱であった。
夜は暗くて寒い。
苦いもの、酸いものは、体に毒と知っている。
だけどなぜか、それが少し混ざると旨味と感じる。大人は。
それと同じように、夜には独特の旨味があるのだろう。
夜気に当たるのは、毒。
でもときどき、少しは当たりたい。