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『新月の音』第4章4部
だから小晴とにせよ、雑談の際の小野寺とにせよ、祐也にとって現在を生きている他者と関心を示し合うことは、束の間でも彼を救い上げていた。
祐也は緊張を抑えて、中央のビルのエントランスで、会社の秘書室の琴似という男性と合流した。会社員としては十分洗練された容姿で、そのまま式典に出ても違和感がない印象を与えていたが、他方で威圧的な雰囲気もない、ふくよかでも筋肉質でもない、祐也より微かに低い背丈の男性だった。琴似は暇を持て余すこともなく、温厚だが隙も見えない様子で待っていた。
「洙原祐也様、ですか?」
「はい。洙原です」
お互いに上ずった声だったが、琴似の方がいくらか素の声が高く柔らかかった。琴似は少しだけ表情を砕いた。