カラマーゾフの姪:晩夏の探鳥会(1)
「僕の願望は……」
「その手を離さないで、守裕君」呼び掛けた主の口が視認できる位置で、三咲すみれが言った。
彩田は目を疑い、意図せず握力を幾らか加え、曲丘の手が反射的に力を入れ返すのを感知した。「……すみれさん……?」
「…驚かせたね、ごめんなさい。…別に不倫だとか野暮なことは言わない。そうなった文脈は大体分かるし、それに私達は、永遠に二人だなんて約束を未だしていない。罪悪感は要らない。でもとにかくその手の力を抜かないで、恋人でなくても、少なくとも友達として、この頼みを聞いて欲しい。その手は離さないで」
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