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ページをめくる【感想文の日 57】

こんばんは。折星かおりです。

第57回感想文の日、今夜感想を書かせてくださったのはtsushiomaru / 観る絵本さんです。

tsushiomaruさんが作られているのは「観る絵本」。「寝る前にスマホでYouTubeをつけて読書をするような感覚で見てもらえたら」という言葉のとおり、ページをめくるようなゆったりとしたスピードで、物語が動画で紡がれてゆきます。脚本・イラスト・音楽(一部楽曲を除く)・動画編集、すべてをおひとりで作られたtsushiomaruさんの「やりたい」という心意気が強く強く伝わる作品、じっくりと拝見しました。改めて、ご応募くださりありがとうございます!

今回は「観る絵本」の制作にあたっての思いが綴られたエッセイと、動画『Hello, Mister』をご紹介いたします。

■「できっこない」をやめた話

子どもの頃、「出来るか出来ないか」よりも前に自分自身を突き動かしていた「やってみたい」という気持ち。しかしtsushiomaruさんは、いつしか「やってみたい」よりも先に「できっこない」と自分自身の力量を決めてしまっていることに気づいたそうです。それならば、まずは「できなくはない」を目指し、その先の「できた」を積み重ねて、ひとつの作品を作ってみたい。「観る絵本」にかける、tsushiomaruさんの熱い思いが詰まったエッセイです。

だから、この作品を作りたいと思ったときから「できっこない」を封印したろーって思いました。

ただ、作りたい。ただ、やってみたい。曇りのないまっすぐな思いが、きらりと光ります。大人になる段階で心の奥底に追いやってしまった気持ちを、自らの意志で取り出したtsushiomaruさん。「できっこない」から「できた」を目指す、丁寧な一歩一歩もまた素敵です。

自分が出来ないことを「できっこない」と諦めるのではなく、ひとつずつ挑戦して「できないこと」を地道に「できなくはない」まで持っていき、最終的に「できた」を積み重ねて一つの作品を作ってみようと思ったわけです。

「作ってみたい」という気持ちが沸き上がってから、構図を学び、脚本を考え、絵を描き、音楽を作る。ひとつの世界を作り上げるまでの道のりはきっと、想像を超える長さのはず。その間中「作ってみたい」という思いを消すことなく燃やし続けたtsushiomaruさんの姿に、こちらの背中も押されたような思いがしました。

■Hello, Mister(全4話)

ある町に迷い込んで、人々にけむたがられていた一匹の猫。ずっとひとりだった猫はあるとき、町を愛する町長の"フィズ・バートン"と出会います。猫を"ミスター"と呼び、帽子をとって深々とお辞儀するフィズの姿に、心を許したミスター。静かに始まったひとりと一匹のささやかな暮らしの中で、フィズはミスターに大切なものを伝えてゆきます。

これはこれは 可愛いお客さんだ

三日月が光る夜、柔らかな街灯の光の下でフィズとミスターは出会います。泥棒猫と罵られずっとひとりだったミスターに、丁寧に向き合うフィズ。オープニングで流れる繊細な音楽も美しく、tsushiomaruさんの「寝る前に読書をするような感覚で」という思いがひしひしと伝わってきました。

「観る絵本」という言葉の通り、そっと切り替わる映像はまさにページをめくるよう。静かな夜に遠くから聞こえる虫の音や、ぱちぱちと弾ける暖炉の火の粉の音も心地よく、「読む」以上にお話の世界観に引き込まれました。

そして、個人的にぐっときたのは第2話。町に住む孤児の少年"リド"は、いつも"ジル・アダムス"のパン屋「アダムス・ベーカリー」からパンを盗んでいました。そのうちにリドは「悪ガキのリド」と呼ばれ、町の人々から蔑まれるようになってしまいます。しかし、フィズはアダムス・ベーカリーの様子を見て、あることに気づきます。

あのパンは本当に彼に盗まれたのですか?

盗まれることがわかっているのに、パンが軒先に並べられていたのです。話を聞こうとするフィズに、ジルは語りだします。

幼い頃、リドと同じような孤児だったジル。ジル自身も、生きていくために盗みを働いていた時期がありました。しかし、そんな彼を救ってくれたひとがいたのです。

私が君を雇ってやろう。その代わり、もうこんなことはやめるんだ
君は夢を持ったことがあるかい?
明日や明後日を食っていく人生ではなく
1年後、2年後の人生を見つめる人間になるんだ

そのひとは、ブルガリ家の貴族の執事長でした。彼はジルに様々な仕事を教え、ジルを一人前の執事に育て上げます。その後、彼の死をきっかけにジルは執事を辞めてしまいますが、その頃にはジルは「孤児」ではなくなっていました。

誰にどう思われるかじゃない
自分がどうありたいかなんだ
人生は変えられる
生まれ育った時代や、家柄は選べねえが
そこでどう傷つき、どうもがくかは自分で決められるんだ

孤児だったジルが自分自身の手で得た「いま」は、不思議なめぐりあわせあってこそ。そう考えているジルは、リドを放っておくことができなかったのです。自分自身の経験に裏打ちされたジルの信念に、熱いものがこみ上げました。

友情家族、選択……。フィズがミスターに教える大切なものはきっと、優しく静かにあなたのところにも届くはず。ある町に住むひとりと一匹と、その周りの人々が織りなす物語。ほかのお話もぜひ、こちらから見てみてくださいね。

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毎週土曜日の「感想文の日」、感想文を書かせてくださるかたを大募集しています!(1~2日程度、記事の公開日を調整させていただく場合があります。現在、7/17以降の回を受け付けています)

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