![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/48174847/rectangle_large_type_2_ad0f6abea2a1bd3f9d3bacd51c3b016b.jpeg?width=1200)
言葉が咲く【感想文の日㊶】
こんばんは。折星かおりです。
第41回感想文の日、今夜感想を書かせてくださったのは雪柳 あうこさんです。
短編小説や詩を中心に、noteの内外で言葉を紡いでいらっしゃる雪柳さん。現在は「ノベルメディア文活」「詩誌OUTSIDER」にも参加されています。筆名にもされている『雪柳』などお花の写真に詩を添えた作品も多く、色とりどりの作品をたっぷりと楽しませていただきました。改めて、ご応募くださりありがとうございます!
今回は短編小説の中から3作品をピックアップさせていただきました。それではさっそく、ご紹介いたします。
■グリーンカーテンの裏側
昔ながらの造りを気に入り、郊外に建つ築50年近い借家に住み始めた"わたし"こと"朝乃"と"夕"。夏に向かうある日から、ふたりは夕が買ってきたゴーヤの苗を育て始めます。猫の額ほどの庭の端でほそぼそと蔓を伸ばし、実をつけ、台風にも耐えるゴーヤ。それを見つめる朝乃と夕の、静かで確かな日々を描いた作品です。
ふたりの穏やかな日々の中に、夏らしさを運んできた小さなゴーヤの苗。最初はふたりにとってあまり馴染みのないものだったようですが、徐々に愛着がわいてくる様子が何とも微笑ましく、頬を緩ませながら拝読しました。
夏休みを迎える頃には、ふたりのゴーヤへの愛は、水やりのために時期をずらして実家に帰省するほどに。しかし、期待していたほどのゴーヤのカーテンは出来ないまま、夏の終わりを迎えてしまいます。
「明日片付けとくよ、ゴーヤ」
夏の終わりに、最後のチャンプルーを出しながらそういうと、夕は少しさみしそうに笑った。
「来年は、きれいなカーテンになるといいねぇ」
今はふたりで暮らしている朝乃と夕が出会ったのは、大学生の頃。ひととコミュニケーションをとることが苦手だった朝乃にとって、夕は素でいられる初めての他人でした。友人ではないけれど、恋人でもない。名前はつけられない関係だけれど、ふたりをつなぐ思いは、静かに温かくこちらまで伝わってきます。
わたしたちの関係に、これまでも、これからも、つけられる名前はないだろう。
それでも。
いとおしさに名前がなくても、わたしたちは未来の話ができる。
「わたしたちは未来の話ができる」。力強く光るような言葉に、ぐっと心を掴まれました。手作りの温もり、ささやかな幸せ、未来を見つめる眩しさ。フラットでありながら様々な魅力がぎゅっと詰め込まれた、素敵な短編小説です。
■季節の小部屋
大きな窓のある小部屋で「季節書記官」として働く少女の仕事は、窓の外に広がる秋の終わりを記すことでした。「晩秋」を担当する彼女は「初秋」や「秋半ば」からの資料や各地からの報告を確認したりと大忙し。読み書きが好きだから、と志した仕事だったけれど、遠くへ渡ってゆく鳥や散ってゆく枯れ葉は彼女の気持ちを滅入らせるばかりでした。そしてある日、彼女はとうとう書記官長に仕事が辛いのだと切り出して……。
彼女の気持ちを優しく受け止めた書記官長の言葉は、意外なものでした。
「……そうですね、気分を変えて、春を見ておいでなさい」
春の色彩、春の夢。春はどんな風に始まり、どんな風に終わるのか。そういうことを知れば、貴女の仕事の意味がよくわかるでしょう。
休みをもらった彼女は、「春のホール」の見学へ出かけます。きらめくステンドグラス、降り注ぐ光。拝読するときには画面をスクロールしているけれど、ページをぱらりとめくったような鮮やかな場面転換に息をのみました。
最初は「春」に憧れた少女でしたが、見学をしているうちに大切なことに気づきます。春に魚が孵るのも、木々の芽吹きも、すべては季節のつながりがあるから。「秋」の大切さに気付いた彼女は再び「晩秋」の部屋へ戻り、季節の変わりをしたため始めます。
色鮮やかに描かれる四季と、その間に覗く少女の成長に、爽やかで温かな気持ちがこみ上げました。
■うたうためには
高校のクラスが同じで出席番号が近く、何かとペアになることの多かった"わたし"こと"紫"と"藍"。学年末の音楽テストでもふたりはペアを組んで課題曲を歌うことになったのですが、クラスのみんなの前に立って歌い始めたとき、紫は藍の声が出ていないことに気づいて……。「うたう」をテーマに創作された「ノベルメディア文活3月号」寄稿作品です。
“――どうしたらいい? わたしに何か、できることはある?”
テストで歌うことが出来ず藍が音楽の先生に怒鳴られた後、紫はこう書いたノートの切れ端をそっと差し出します。人知れず苦しみの中にいた藍に、静かにそっと寄り添おうとする紫の優しさはきっと染みたことでしょう。
藍の声が出なくなったのは、担任でもある音楽の先生に財布を盗んだ疑いをかけられたことがきっかけでした。どうせ学校を去ることになるのなら、いっそこのまま。けれど疑いは晴らしたい。藍は紫に、本心を告げます。
―― 一緒に戦ってください。
ふたりは電車の音にまぎれて発声練習をし、少しずつ声を重ねてゆきます。徐々に笑顔を見せることが増えてきた藍。紫もふたりで歌う喜びをかみしめるようになります。
そしていよいよ迎えた再テストの日、そこにはひとまわりもふたまわりも大きくなった藍の姿がありました。
息を吸い込む。
心臓が燃えて、喉が苦しい。けれど、そのままで歌う。
傷つけられたことに対して、怒っていい。紫に寄り添ってもらって、ようやくそのことに気づくまで丸一週間かかった。どんな立ち位置にあったって、人を傷つけて良い理由にはならない。どんな状況に置かれていたって、自分の誇りのために抗っていいはずだ。
ここで歌うことは、今の私にとって、そのための唯一で大切な方法。そしてこれから先、理不尽を突きつけられた時に、ちゃんと戦うための練習だ。
震える小さな声でも歌う。大きな声で寄り添ってくれるひとがいるから歌える。支えられ、壁を乗り越えた藍もまた紫のように誰かに寄り添えるひとになるのでしょう。
このふたりのエピソードは連作になっており、そのほかのエピソードはマガジン『紫と藍のあいだ』から読むことが出来ます。気になった方はぜひ、こちらもチェックしてみてください。
***
毎週土曜日の「感想文の日」、感想を書かせてくださる方を大募集しています!(1~2日程度、記事の公開日を調整させていただく場合があります。現在、4/10以降の回を受け付けています)
こちら↓のコメント欄より、お気軽にお声がけください。