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優しさを記してゆく【感想文の日㊳】

こんばんは。折星かおりです。

第38回感想文の日、今回感想を書かせてくださったのは、横山小寿々★古妻日記さんです。

横山さんが書かれるエッセイや小説は、それぞれのカラーが違ってとってもバラエティ豊か。ご自身の身体のことやご家族のことを綴ったエッセイは温かく、小説はちょっぴりダークでミステリアスな雰囲気です。中でも、楽しい写真を交えながら綴られるご家族についての文章は、読んでいてこちらまで楽しい雰囲気が伝わってくるようでした。改めて、ご応募くださりありがとうございます!

それでは、ご紹介いたします。

■色とりどりの気持ち

病気になってから物事を考えるのに時間が必要になり、なかなか上手に気持ちを伝えることが出来ずにいた横山さん。そんな横山さんの様子を見て、ご主人が提案したのは「交換日記」でした。お互いの気持ちをゆっくりと綴り、読みあってきたノートはすでに三冊目。ご主人の愛と、それをしっかりと受け止める横山さんの姿が素敵です。

自分の意見を伝えるために言葉を選んだり、エピソードを思い出したり。会話をしながら物事を考えるのには、とてつもないエネルギーが必要ですよね。その場で言葉が出てくるのをゆっくり待つのではなく、横山さんが気持ちを綴る場所として、ご主人が「交換日記」を選ばれたことに、大きな愛を感じます。

ちょっと体調がいい日は
文字もしっかり大きくて
辛い日は字もしょぼしょぼしてます。

色とりどりの気持ちが
ノートいっぱいに溜まってきております。

書くことが多い日も少ない日も、しっかりした字の日も、しょぼしょぼした字の日もある。毎日変化する気持ちを「色とりどり」と表現される横山さんの言葉が魅力的です。

交換日記を書く時間は、今では横山さんの「ふわっとゆるむ時間」になっているそうだけれど、ご主人もきっと同じ気持ちでいらっしゃるはず。ゆっくりとノートに言葉を綴り、目を細めながらお互いの文章を読みあう姿を想像し、温かな気持ちに包まれました。

■何の役にもたたない時間

ガラスのボウルに水を張って満月の光に当てた「満月水」を作ったり、月に関するお話を読んだり。娘さんと一緒に満月の夜をたっぷりと楽しむひとときは、横山さんの愛する「何の役にもたたない時間」なのだと言います。月明かりの下で賑やかに過ごす声が聞こえてくるような、生き生きとした作品です。

月についてお話をしたり
月の本を読んだり
「お月様ありがとうー!!」と
月光浴をしたり
「魔女みたいだね!なんか楽しいね」
ワクワクしている娘が
可愛くて仕方がありません

何て可愛らしい娘さんなんでしょう……!読んでいて、思わず手を止めてしまいました。満月を思う存分楽しむ娘さんの様子に、こちらまでほっこりとした気持ちになります。

日々の忙しさに追われて見逃してしまいそうなことを、こうしてひとつずつ楽しんでゆく。学校で月の満ち欠けの仕組みを習うことも大切だけれど、大人になったときにふと思い出すのはきっと、こんなふうにわくわくどきどきした時間なのだと私も思います。

今夜はちょうど満月。そっと窓を開けて、左手をかざしてみるのもいいですね。

■ボクの宝物

"先生"の言いつけを破って、「落とし物」を拾っても先生には届けようとしない"ボク"。たくさん落とし物を届けたら成績が上がることも知っているし、他の仲間から馬鹿なことをしていると思われていることも知っているけれど、それでも「落とし物」を届けようとしない理由とは。そして、彼が拾っているものとは……?

物語の中で明かされることのない、彼と「落とし物」の正体。具体的に言葉で表すことは控えられていますが、「落とし物」はどうやらとても美しいもののようなのです。

初めてそれを手にしたとき、なんてあたたかく綺麗なんだろうと思った。先生が「とても大切なもの」だって言っていた意味が分かった。しっかり先生に届けないといけないなって思った。
いくつか拾っているうちに、色がついているものを見つけた。見るだけで、胸が締め付けられるような色。果てのない悲しさと寂しさが伝わってくる。綺麗なのに、見ているだけで切なくなる。
それをみつけたとき、内側にたくさんの元気が閉じ込められているように感じた。花が開く前の蕾みたいだった。手にすると、少しだけ動いたような気がした。こんなことは初めてだった。

幾通りもの言葉で、丁寧に美しく表現される「落とし物」。あるときは事故現場に落ちていて、本人に返すと「柔らかな波紋」が広がったり、息を吹き返したりするようなのです。「落とし物」の正体が、ちょっぴり見えてきましたね。

お話の中で、彼は異色の存在として描かれます。仲間とグループになることもなく、上のクラスに上がっていく仲間たちを羨むこともありません。なぜならそれは、彼にしか見えていない世界があるから。他のひとには同じ色に見えるものが彼には色とりどりに見え、誰よりも「落とし物」に魅力を感じているのです。

一方、だからこそ彼は悩みます。「落とし物」を返して欲しくなかったひとにも出会い、苦しみ、一時期は「落とし物」を返すことを辞めてしまいます。それでもまた彼は立ち上がり、「宝物」である「落とし物」をただ、自分のために返してゆくことを決めます。

さまざまな出来事を経験してもなお、「落とし物」の美しさを信じる彼の姿。眩しいほどに清々しい様子に、熱い気持ちがこみ上げました。

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毎週土曜日の「感想文の日」、感想を書かせてくださる方を募集しています!(1~2日程度、記事の公開日を調整させていただく場合があります。現在、4/3以降の回を受け付けています)

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