
日々変わる景色を【感想文の日㉘】
こんばんは。折星かおりです。
第28回感想文の日、今夜感想を書かせてくださったのは るななんさんです。
普段書かれているのは、短編小説や詩など。詩は日本語のみならず、英語で書かれたものもたくさんあります。文章を書くときに言葉のリズムやイメージをどう選ぶのか。どの言語でも変わらない「言葉を紡ぐ楽しさ」を改めて考えることができました。ご応募くださり、ありがとうございます!
それでは、ご紹介いたします。
■もしも私が死んだら
高校・大学時代にお世話になった、棺のような柵がついたロフトベッド。るななんさんはそこに横たわり「自分の棺の中の花はどんなものが良いかしら」と思考を巡らせます。休職前に惹かれたレモンイエローのひまわりか、白と組み合わせればぐっと落ち着く赤い薔薇か。しかし、るななんさんの心には半分枯れても生き続ける「彼」の姿があったようで……。
今回拝読した記事の中で、個人的に一番ぐっときた作品でした。「梶井基次郎の『檸檬』に出てくるような鮮やかな黄色」「『私、綺麗でしょう?』と言わんばかりの喧しさ」など、鮮やかな色が浮かぶ描写が、文章の中に出てくる「花」の存在感をぐんと押し出します。
そして中でも光るのが、るななんさんが惹かれた「彼」の描写。身も心も疲れ果てていた休職前、るななんさんの傍にあったのは半分枯れても生き続けていた桔梗だったのです。
ただ、白い桔梗だけは1本コップの中で何もなかったかのように生き残っていた。
「僕なんてまだまだ耐えられるんだから。」
少しずつ、会社に行けなくなって、何も食べられない私と1本の桔梗。「まだ、大丈夫」をずっと繰り返していた。
最後、残った桔梗に「さよなら、ありがとね」と別れを告げてゴミ袋に入れた。
そして、案の定精神科では休職が勧められた。そのまま、羽田空港に向かって札幌に戻った。
今でも花を見ると思い出す。今年の夏を。
「まだ大丈夫」と言っているようだった桔梗の姿が るななんさんと重なり、ぎゅっと胸が締め付けられました。最後には桔梗に別れを告げたけれど、それは決して負のイメージではなく、きっと「生きてゆく強さ」の証。儚さと強さが静かに広がる、美しいエッセイです。
■葱トリック
ある日、るななんさんが住むアパートの前に落ちていた緑色の葱の葉。買った葱を落としたのだとしたら、白い部分もついていないとおかしいのではないか。なぜ緑色の部分だけだったのか。お母さまとの会話の中で、るななんさんはその謎に迫ります。葱が落ちたかった「願望説」、誰かが白い部分だけを持ち帰った説……。迷い込む思考が描かれる、コミカルなエッセイです。
こちらは先ほどのお話とは打って変わって、フラットな文章でありながらカジュアルでコミカルな雰囲気です。道端に落ちていた葱の葉から始まる「葱トリック」。ところどころに挟まれる会話やモノローグに、ふふ、と頬が緩みます。
「流石、東京にはネギが落ちている。素晴らしい東京。」
「どうして、ネギの緑色の部分だけ落ちてたのだろう。」
「落ちたかったからじゃない?」
落ちていたのは葱。そう信じて疑わなかったるななんさんですが、考えているうちに別の答えに辿り着きます。葱が緑の葉だけで落ちているのなら、白い部分が切り取られた断面が存在しているはず。けれど、それがないと言うことは……。
母に恐る恐る聞いてみる。
「あのさ。ネギってさ。玉ねぎの仲間?」
「仲間も何も葱でしょ?だって、長ネギ、玉ねぎ、じゃん。」
なんということだ。ネギは、私のあの日見たネギは、いやずっと生まれながら意識せずとも頭で見たネギは玉ねぎの仲間だったのだ。
すっきり解決に向かうと思い安堵したのもつかの間、新たな可能性は次の疑問を生み出します。
あの日見たネギはどの葱であるか?
どこまで探っても答えに辿り着けないこのトリックはまさに葱のよう。くすくす笑ったり、ううんと唸ったり、とっても楽しく拝読しました。
■冬のオリオン、星屑ツアー
冬の空で堂々と光るオリオン座、欠けた月、流れる光。生まれ、そして亡くなる星を巡る幻想的な「星屑ツアー」。きんと冷えた冬の夜空や、凛と光る星の光が目に浮かぶ、美しい詩です。
ぐらりと揺れた視界から一気に引き込まれる澄んだ世界はどこまでも煌めいていて、ため息がこぼれてしまいます。「星屑ツアー」のタイトルの通り、まるで夜空のあちらこちらを見て回るような流れも素敵。
そろそろ私も戻らないと
夜の海を駆け抜けて
次はいるか座でも見に行きましょうか
重ねた手をそっと引かれるような甘美な読後感に、いつまでもうっとりと、浸っていたい気持ちになりました。
***
毎週土曜日の「感想文の日」、感想文を書かせてくださる方を募集しています!(ご紹介日を1~2日程度調整させていただく場合があります。現在、2021年1月9日以降の回を受け付けています)
こちら↓のコメント欄より、お気軽にお声がけください。