ふるさとをいつまでも【感想文の日⑪】
こんばんは。折星かおりです。
第11回目の感想文の日、今回感想を書かせてくださったのは南葦ミトさんです。
これまでに育児、小説、音楽など様々なジャンルのものを書いてこられているミトさん。今年の2月には『謎めく鍋パの七不思議』がテレビ東京のドラマ原案にも選ばれています。
今回は、2020年5月15日~7月31日にかけて連載をされていた長編小説『ボウキョウ』を中心に読ませていただきました。改めて、ご応募いただきありがとうございます!
それでは、ご紹介いたします。
■ボウキョウ(全11話+エピローグ)
東京に暮らし始めて2年になる、福島県出身の主人公・充希(ミツキ)。お願いしなくてもコーヒーの味を好みに調整してくれるような優しい彼氏・真司(シンジ)や、新しい世界へ飛び込むことを決めた中高時代の友人・ノノとともにささやかな日々を過ごしていたのですが、彼女には押し込めていた過去の記憶がありました。そんな中、充希のもとに飛び込んできた「お父さんが救急搬送された」という知らせ。それをきっかけに充希は久しぶりに福島へ戻り、過去の記憶と向き合うことになるのですが……。
全11話とエピローグ、合わせて約13万字の長編小説です。テーマは「故郷と家族」、キャッチコピーは「望郷と忘郷の間で揺れる、亡郷者達の物語」。最後まで読ませていただいてまず感じたのは、「気づいたらこんなにボリュームのあるものを読んでいたんだ」という思いでした。東日本大震災を扱っていて、読んでいて苦しくなるようなシーンもあるのですが、魅力的な登場人物たちに手を引かれているようにぐんぐん読み進めることが出来ました。
中でも印象的だったシーンは、第3話の福島に戻った充希と連絡が取れないことを心配した真司が、東京からひとりで福島を訪ねたところ。お父さんの突然の入院に動揺していた充希は、「メシ食いに行こうよ」という真司の悪気のないひとことに対して声を荒げてしまいます。しかし、真司は落ち着いて充希にこう語りかけるのです。
「充希が余裕作るためにメシ食うんだよ。人間ってのは、空腹とか睡眠不足とかをほっとくとパフォーマンス下がっちゃうの。解消できる問題はさっさと片付けるべき」
「話聞くから。”いろいろ大変”だったんでしょ?」
余裕を作るために食べてほしい。すごく優しいな、とじんわり染み渡りました。私たちの日常の暮らしの中にもある「今のひとこと、覚えておきたいな」という温かい心のゆらぎが、少しずつ随所にちりばめられているのが素敵です。
しかし、読み進めるにしたがって明らかになる充希たちの過去、そして描かれる今は決して明るいものばかりではありません。特に、原発事故で帰ることが出来なくなった大野の家(充希の生家)を描く第8話は、緻密な情景描写が伝える悲しみ、葛藤に満ちています。それでも、たくさんの「やりきれない」から、彼女たちはきっと立ち上がる。そう信じて、最後まで読み進めました。
読み終わる頃には、彼女たちがどうか今は、そしてこれからも幸せでありますように、と願わずにはいられないはず。全話がマガジンにまとめられていますので、まだの方はぜひこちらから充希たちのふるさとを訪ねてみてください。
そして、もうひとつ。
■それでも涙はあふれて
2020年3月14日、9年ぶりにJR常磐線が全面開通した日の新聞記事をまとめられています。便利な新幹線はあるけれど「特急が仙台に停まっている」ということがただ嬉しくて心を揺さぶられた、というミトさん。福島の人々の願い、喜び、熱意に寄り添う各紙の記事、そして最後に添えられている「ひたち3号」のアナウンスのまとめサイトを拝見して、私も熱いものがこみあげました。
ふと、『ボウキョウ』のみんなも喜んでいたらいいなぁ、と思いました。ニュースで見ているかな、新聞で読んだかな。あ、あの人は駅まで見に行っちゃうかな。そんなふうに思うほど、『ボウキョウ』に込められたミトさんの思いは、こちらまで届いています。
両手を上げて喜べることばかりではないけれど。まだまだ、越えていかなくてはならないことはあるけれど。
「本当の本当の本当にみんなが笑顔になれる日」まで、あの日のことを、私も忘れずにいたいと思います。
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