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空気をつくる【感想文の日㉛】

こんばんは。折星かおりです。

第31回目の感想文の日、今夜感想を書かせてくださったのはkashikuさんです。

普段はショートショートや詩などを書かれているkashikuさん。明るくきらきらしたものや少し不思議でダークなものなど、書かれるものの雰囲気の幅広さが印象的です。イラストも描かれるとのことで、華やかなタイムラインに心を躍らせながら記事を拝読しました。改めて、ご応募くださりありがとうございます!

それでは、ご紹介いたします。

■どうやらわたしは結構強いらしい話

「強そう」と言われる外見や、自分自身でも感じる内面の強さに反して、kashikuさんは「馬鹿みたいに生きづらい」と感じていた時期があったそう。器用にやっていけるはずなのに、普通に学校に行けない。本当の自分が分からない。けれど、同じ体験をしているひとがいることに気づくと、ふっきれたものがあったそうで……。

パブリックなイメージと自分自身の考え方のギャップを感じること、ありますよね。ほんの少しの違和感が燻るくらいのものから、息苦しさを感じるものまで。けれどそんなkashikuさんのそばにいたのは、イメージにとらわれることなく、kashikuさん自身のことを見ていてくれるお友達だったようです。

わたしはどうやら「普通」じゃないらしい、とわたしをよく知っている友達に話したら、
「え、昔からそうだったよ?」
と言われた。
自分が「普通」じゃないらしい、なんて、イタいかなと、ちょっとドキドキしながら言ったのに、まさかの全肯定。
「なんか、昔から周りの子と感覚違うっていうか、感性豊かだったし。あ、言葉選びとかも独特だよね。」

みんな違うこの世の中に「普通」なんてないはずなのに、ついつい凝り固まってしまう私たちの思考。「『普通』じゃない」と言えるようになるまで、きっといろいろな葛藤があったことと想像します。飾り気はなくても、kashikuさんを「感性豊か」と表現するお友達の言葉も素敵です。

そして、中でもぐっと来た部分がこちら。

孤独感は今でもあるけれど、わかってくれる人が世の中にはいるということも、今のわたしは知っている。受け入れてくれることも。
受け入れてくれるってことは、他者の役にも立てるのだ。わたしの絵を、言葉選びを、世界を好きといってくれる人がいる。

絵や言葉選びが好き。それは、そのひとのこれまでの積み重ねを認め、寄り添うことだと思うのです。ここで表現をしているみなさんならきっと、そういってもらえる心強さが染みるはず。終盤に向けてぐんぐんと熱さを増す文章が、とても眩しかったです。

■金魚バス(短編)

田んぼに挟まれた一本道を、自転車で行く帰り道。ふと、前方にひとりの老人が立っているのに気づきます。あたりに家はなく、農作業をしている様子でもない彼の様子を怪訝に思っていると、そこに一台のクリーム色のバスが通りかかって……。

物語全体に漂う、どこか妖艶な、不思議な雰囲気がとっても魅力的です。それでいて、文章から溢れるのは様々な色。

遠くの山の、そのまた向こうで、日が沈もうとしていた。
雲が鮮やかに色づいている。
振り返れば、濃紺が背を押すのが見えるだろう。

読めばぱっと脳裏に浮かぶのは、山のシルエットを照らす夕焼けのグラデーション。その時間に現れて、夕日に向かっていき、闇に溶けてしまった「金魚バス」は、きっとこの世のものではないのでしょう。

故郷の、あの、すぅ、とした一本道を思い出す時。
あのバスは、どこにいったのだろう、とわたしは今でも考える。

「すぅ、とした一本道」。心細さ、おそれ、少しの懐かしさ。いろいろな感情が入り混じった、少し冷たくなり始めた夜風に吹かれたような読後感に包まれました。

■小春日和【ショートショート/詩】

「若作りやがって」「つわものぶって」。青いブーツと黄色いドアが、けんかを始めてしまいます。仲裁に入る”わたし”と、その周りを包む春の陽気。ビビッドな色合いが楽しい、詩の作品です。

去年の冬大活躍した、薄汚れた青いブーツ。それに対する黄色いドアは、塗りたてなうえに蝶のきらきらまでついていて、青いブーツはその「若作り」が気に入らなかった様子です。些細な言い争いは、段々とヒートアップしてきます。

「なんだと、そこから動けないくせに、海へも山へも行けないくせに」
「なんだと、いっつも踏まれてるくせに、誰とも握手したことないだろ、見ろこの素敵なノブを」

それでも、その周りにあるのは、「ぽかぽか すくすく にこにこ」と穏やかに流れる春の時間。『金魚バス』同様に鮮やかな色合いを感じさせながらも、温かみのある雰囲気が漂います。何だか春が待ち遠しくなるような、ほっこりとした気持ちになりました。

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毎週土曜日の「感想文の日」、感想を書かせてくださる方を募集しています!(1~2日程度、記事の公開日を調整させていただく場合があります。現在、1月23日以降の回を受け付けています)

こちら↓のコメント欄より、どうぞお気軽にお声がけください。


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