夢はかろやかに【感想文の日 53】
こんばんは。折星かおりです。
第53回感想文の日、今夜感想を書かせてくださったのは穂音さんです。
プロフィールで愛犬のパピヨンを「創作のヴィーナス」と紹介されている穂音さん。犬の登場する本を紹介するマガジン『尾も白い犬のはなし』では、犬の可愛さや愛おしさを軽やかに、時に熱く綴っていらっしゃいます。小説も書かれるのですが、こちらは読んでいるうちにその世界にぐるりと引き込まれてしまいそうな雰囲気が魅力的。一週間、とても楽しく拝読しました。改めて、ご応募くださりありがとうございます!
それでは、ご紹介いたします。
■道なき道を行く
本や日の丸の背景、パンダやトイレ……。お話の主人公は、世の中にあふれる「白」を見ることが出来ない"俺"。見える、見えないとは。消えていく、とは。"俺"の切なく孤独なモノローグに心奪われる、ショートショートです。
しめじさん主催の個人企画「写真から創る」応募作のこちら。お話は"俺"の衝撃的な告白から始まります。
白っていう色があるらしいね。
ああ、俺ね、見えないのよ、白だけ。
白い紙が見えず、本は文字が宙に並んだ状態。誰もが見慣れた日の丸は、"俺"にとっては赤一色の国旗。軽妙な語り口でありながら、どこか諦めや悲しみが滲んでいるように感じます。
そして"俺"の告白がもうひとつ。雪が降ると、身体に穴が開いて消えてしまうと言うのです。
今、積もってるんだね。
街がなくなってるからね、わかるよ。
「白」以外の色で作られていた"俺"の見ている世界を、静かに、冷たく塗りつぶしてゆく氷雪。その世界とともに、だんだんと消えゆく自分。その心細さは、どれほどのものでしょう。
あったかいものが欲しくなってね。
うどんとか、一度食べてみたいんだけど。
まあ、ラーメンにしとくかな。
身体を温めようと思っても、ここにも立ちはだかる「白」。"俺"の孤独がぐっと引き立ったようで、胸が詰まりました。
■出直してきやがれ
お菓子の中でも和菓子、さらにその中でも「あんこ」が大好きだという穂音さん。初めて地元を離れて働いたとき、穂音さんはこれまでとあまりにも違う和菓子屋の様子に衝撃を受けたのだといいます。大きすぎる上用饅頭や栗饅頭もない和菓子屋なんて「出直してきやがれ」。しかしその言葉はやがて、違うところへと向けられることになるのです。
上質なるあんこ、それを包み込む「かわ」とのコンビネーションが最高であるとき、至福の鐘が鳴る。
自然薯を使った真っ白い皮はゆるやかに香り、やさしい甘さの皮むき餡と相まって、他の追随を許さない(穂音さん談)。
丁寧に、美しく綴られる和菓子に穂音さんの「和菓子愛」を感じます。読ませていただきながら、ほぅっとこぼれるため息。私も、和菓子大好きです……!
穂音さんがこの和菓子の向こうに感じていたのは「職人気質」。「ストレングス・ファインダー」というテストを受けてみても、穂音さんの強みは学習欲、最上志向、達成欲などで「狭く深く」を好む結果になったそうです。
そして、自分自身には当てはまらなかった資質を読んでみると、それが自分の中には全くない思考だ、ということにも気づいたそう。「みんなちがって、みんないい」という言葉に初めて納得が出来た瞬間だった、と綴る穂音さんの言葉に、思わず深く頷きながら拝読しました。
違う資質の人から成るチームは、会社は、世界は、きっと強い、そして居心地が良いだろう。
そして、あのときの「出直してきやがれ」は。
穂音さん、あんたまだまだやな。
出直してきやがれ。
自分に反省を促しながらも、残るのは爽やかで前向きな読後感。最後に添えられた「桜じょうよ」の包装紙の写真にも「和菓子愛」を感じ、頬が緩みました。
■究極の2択
穂音さんが20代で出会い、まだ解けていないという「究極の2択」から広がる、様々な場面での選択肢。技術か心か。理解か愛か。問いをロジカルに解きつつ、優しく読み手に寄り添う素敵な作品です。
1. 技術がある、心がある
2. 技術がある、心はない
3. 技術はない、心がある
4. 技術はない、心もない
例えば、病院や学校の先生ならどんなひとのところを私たちは選ぶのでしょう。1がベストで、4はきっと選びませんね。それでは、2か3なら?
ここで、穂音さんは犬とひとの関係を例に挙げます。例えば、犬が大好きなひとが「まあ可愛い」と犬の顔を覗きこんで、目線を合わせる。しかしこれは、犬からすると「脅威、敵意」を感じてしまうそうです。どんなに犬が好きでも、犬とひとの「好き」の表し方は違うことを知っていなくては、せっかくの気持ちも正しく伝わらなくなってしまいます。
わたしは、しっかりした技術の土台というものを、大切に思うのだ。自分の思うところを、表現したいことを、誰かに伝えるために、そして受け取るために、みがきたい技術がたくさんある。
穂音さんの凛とした言葉に、思わず息をのみました。伝えるためだけでなく、「受け取るために」も技術をみがく。
心がこもっていないとか、冷たいとか言われて悩んでいるとき。伝わらなくて困っているとき。音楽に限らず、色々な場面において。感情を表す「技術」があるよと、教えてくれる人に出会えたならば。
みがいた技術はきっと、誰かを助けるためにも使えるときがやってくる。私自身も、そのときにきちんと「技術」の存在を伝えられるひとでありたい、と強く思いました。
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