月の輝き、星のきらめき【感想文の日㉞】
こんばんは。折星かおりです。
第34回感想文の日、今夜感想を書かせてくださったのは百瀬七海さんです。
「百瀬七海」としてお話を書き始めて、もう10年以上になるという百瀬さん。恋愛小説を中心に、エッセイ、詩などを毎日投稿されています。どの文章もきらきらと澄んでいて、読んでいると百瀬さんの世界へと優しく手を引かれて連れていかれるよう。私もnoteを始めた頃からお名前を存じ上げていたので、今回お声がけくださって本当に嬉しかったです。改めて、ご応募くださりありがとうございます!
それでは、ご紹介いたします。
■17の夏、君の背中に恋をした
高校のバスケ部の部員とマネージャーだった"奏太""貴史""綾"、そして"私"こと"優香"。部活動を引退した後も教室で勉強したり語り合ったり、いつも一緒に過ごしていた4人は、綾の提案で手作りのものを持ち寄って卒業パーティーを開くことになります。しかし、料理上手な綾と被らないメニューをなかなか思いつかず、頭を悩ませる優香。そんな彼女に奏太が「アルバムづくり」を持ち掛けて……。
まずは、青春がぎゅぎゅっと詰まったこちらの作品から。恋愛を描いた短めのお話ですが、若々しくエネルギッシュな登場人物たちが魅力的です。料理上手な綾と貴史はきっと両想いで、そんなふたりに気を遣う優香と奏太は、自然と恋に落ちていて。
卒業パーティーのためにつくるのは料理だとばかり考えていた優香を、奏太はアルバムづくりに誘います。写真が好きな奏太らしい「手作りのもの」だけれど、きっとこのお願いも、優香と長い時間を一緒に過ごしてきた彼だからこそなのでしょうね。
「優香には、俺の撮った写真に、キャッチコピーをつけてほしいんだ」
「キャッチコピー?」
「あぁ。優香は、ライターを目指してるんだろ?」
奏太には話したことのないはずの、優香の夢。その夢を尊重してくれる、愛情の詰まったお願いに、胸がきゅんとします。けれど、こんな優香の夢まで知っている奏太にも、「ひとつ」だけ分からないものがあるようで……。
「俺、この日、優香に恋をした。だから卒業してもずっと、俺は優香に恋をしていたい。俺がたったひとつわからないのは、優香の気持ちだ」
お話はもちろん、幸せあふれるハッピーエンド。こんなに素敵な高校生活送ってみたかった……!と思わずにはいられない、瑞々しい作品です。
■月の涙と星のカケラ
部屋の天井に手作りのプラネタリウムを映し、そっと天井に手を伸ばす"私"。身体がふわりと宙に浮いたかと思えば、”私”は三日月に腰かけ、たくさんの星たちに囲まれていました。星に手を触れ、うっとりと流れ星を見つめていると聞こえてきた「大丈夫?」という温かい声。その声は、”私”が知らないはずの、お母さんの声でした。
身体ごと、宙に浮かぶ感じがしたところで、ゆっくりと目を開けると、私は三日月に腰を下ろしていた。
まるで詩のように美しい、百瀬さんらしさ溢れる文章が光ります。一行一行ゆっくりと味わい、星のきらめきをイメージしながら拝読しました。
"私"が天井に映すプラネタリウムは、すでに亡くなったお母さんが手作りをしたものでした。「大丈夫」と強がる"私"を、輝く星とともに包むのは、「泣いてもいいんだよ」と寄り添うお母さんの声。ぽろぽろと零れる"私"の涙は、明るく光る星に変わります。
突然、電気がパチっとつく。
手のひらの中にあったはずの星のカケラが、ネックレスにかわって私の首元にかけられていた。
たとえ夢から覚めたとしても、きっとお母さんはいつでも"私"を見守っているのでしょう。「月」と「星」をモチーフに綴られる、母と娘の愛情の物語です。
■より真剣に、心に向き合う
「たった一冊でいいから、自分の本を出版したい」。長い間小説を書いてきた百瀬さんの心に灯った、ひとつの夢。しかし、その夢を叶えるためにしなければならなかったのは「百瀬七海らしさ」を捨てることだったのだと言います。楽しく書いてきたはずなのに、叶えたい夢のはずなのに、その夢が自分を苦しめる。そして何より、書くことを嫌いになりたくない。様々な思いの狭間でもがき、それでも前を向く百瀬さんの「書くこと」への思いが詰まった、凛としたnoteです。
楽しくて書き続けてきたはずなのに、夢を追い始めると、それが時に自分を苦しめる。
自分自身にも思い当たるところがあり、胸がちくりと痛みました。焦り、絶望、痛み……。長い長い間「書くこと」を続けてこられた百瀬さんが出会ったであろう、たくさんの思いを想像します。
小説を読んだ時に、その小説を書いた作者のことが思い浮かぶかどうか。
言葉のひとつひとつから、「百瀬七海」が書いた小説だ! と思われるものを書き続けたい。
誰もが目指す、ナンバーワンじゃなくて、「百瀬七海」だから、と言ってもらえる、オンリーワンがいい。
「『百瀬七海』だから、と言ってもらえる、オンリーワンがいい」。そう言い切る百瀬さんの強い気持ちに、息をのみました。そしてこの思いは、一時は小説を書くことから離れてしまった百瀬さんを再びこの世界へと引き戻します。
そんな中、前に書いた小説を、別の名前でアップしました。
タイトルも名前も違う。もう百瀬七海の名前ではどこにも公開していない作品。
この世界には、どこかで読んだことがあるような気のする小説は決して少なくない。
限られた設定の中では、描ける世界はとても狭い。狭すぎる。「昔どこかで誰かが似たような作品を書いていた」という、そんなレベルで終わるだろうと思っていました。
でも、その作品を読んだ何人かの人たちは、それが「百瀬七海」の作品であることに気づいてくれました。パクられたと心配して連絡してくださった方もいました。
その小説以外、新たに書いた作品を読んで、「百瀬七海」が書いたものなんだと、気づいてくださった方もいました。
私は、言葉で「百瀬七海」になることができました。
読みながら、じわりと熱いものがこみ上げました。しばらく休んでも、名前を変えていても、自分の作品だと気づいてもらえる。それは百瀬さんが作り上げた「オンリーワン」の証に違いありません。
書き続ける百瀬さんを、私も応援しています!
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