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一歩ずつ、立ち止まりながら【感想文の日④】

こんばんは。折星かおりです。

第4回感想文の日、今回読ませていただいたのはAzumi_Cotoba_Designさんです。

普段書かれているのはショートショート。プロフィール欄に並ぶ数々の受賞歴に、どきどきします。全作読ませていただいたのですが、バリエーションに富んだショートショートが楽しくて楽しくて……。感想文の日ということも忘れて読みふけりました。ご応募、本当にありがとうございます。

それでは、ご紹介いたします。

■キミのまる文字

雨が続く季節に毎年届く、「キミ」からのバースデーカード。27歳の「わたし」は、大人の女性に贈るには幼いそのデザインに、お祝いの言葉を伝える「キミ」の丸文字に、ちいさなしあわせを感じます。そしていつもひたむきな「キミ」は、夢があるわけではないけれど、今の自分を変えたくてもがいている。そんな不器用さを愛しく思うと同時に、「キミ」にそのままでいてほしい「わたし」もいるようで……。

Azumi_Cotoba_Designさんの作品を読ませていただいて一番印象的だったのが、読点の使い方。書くときの呼吸と、読むときの呼吸では読点が欲しい位置は違うよなあ、と最近ちょうど悩んでいたのです。キーボードを叩くスピードに任せていると、風景や気持ちを想像する息継ぎが消えてしまうことがある。けれどこちらの作品をはじめとするAzumi_Cotoba_Designさんの文章には、一歩ずつ、ゆっくりと息をしながら読んでいける温かい余白が残されています。

たとえば、こちらの会話。

「あ、もしもし。カード届いたよ。りらっくま、かわいい。ありがとう。」
「届いた?よかったよかった。週末、そっち行くから。新幹線チケット取った。」
「わかった。楽しみにしてるね。勉強は、順調?」

「勉強は順調?」ではなくて「勉強は、順調?」と会話をするふたりだから、あのちいさなしあわせが続いているのでしょう。きっとふたりでこれから、もっと幸せになれる。そんなぽかぽかした読後感に満たされる、素敵なお話でした。

■国際センス

ある山奥の廃寺で一堂に会した妖怪たち。長のぬらりひょんを中心に、議論が交わされています。そのテーマは「いかにして昔のように人々を怖がらせるか」。文明は進んでも昔から変わらない妖怪たちの姿は、人間を怖がらせるどころか、嘲笑の的になっていたのです。そこで化け猫が出した提案は「諸外国の知見を深め、センスを磨く」こと。「妖怪もグローバリゼーションの時代」と賛成した長の選で、三人の妖怪が海外留学をすることになるのです。

「山奥の廃寺」という場所やどんよりしたアイキャッチとは裏腹に、作品からにじみ出る雰囲気はどこか明るく、コミカルです。妖怪たちが頭を寄せ合い、ああでもないこうでもないと話し合いをしている様子を、こっそり覗き見ているようなわくわくがたっぷり。きっとぬらりひょんの期待を裏切ったであろう、留学した三人の成果もとってもいい!最後まで読んで「ふふっ」と声を出して笑ってしまいました。

■天国の成分

一昨日、お父さんを亡くした「俺」。火葬場の頭上に広がる青空を見つめながら、何か大切なものを失ってしまったような、空にまつわる記憶に思いを巡らせます。

小さいころには「憧れ」や「不思議」で彩られ、きらきらしていたはずのこの世界。その真実を知り、知識を増やしてゆくことももちろん大切だけれど、それと引き換えに失ってしまうものがある切なさに、胸が締め付けられました。

「俺」にとってのお父さんは、まるであの頃の「空」のよう。どうして空が青いかなんて、どうして白い雲が浮かんでいるかなんて、そして亡くなったお父さんが行くであろう天国の場所なんて、分からなくたっていい。「分からない憧れ」があるからこそ、私たちは未来に手を伸ばすことができる。青空を見つめる「俺」の肩をぽんと叩いて隣を歩いていきたいような、そんな気持ちになりました。

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毎週土曜日の「感想文の日」、感想を書かせてくださる方を大募集しています!(現在8/1以降の回のご応募を受け付けています)

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