鏑木清方と樋口一葉
鏑木清方の作品の中で最も心を惹かれるのは「一葉女史の墓(鎌倉市鏑木清方記念美術館)である。
「たけくらべ」のヒロイン美登利が、樋口一葉のお墓に寄り添うその情景は、現実には起こりうることはないが、樋口一葉、美登利とともに薄幸な人生を歩むこととなる二人が、作者、作中の登場人物という垣根を越えて、ともに自分たちの境遇を乗り越えようとも、慰めようともしているように見える。美登利に注がれる清方の温かな眼差し、優しさこそが清方の真骨頂とも言える。
日本画の大家である鏑木清方はその華やかで品格のある画風と、その高い技術をもって市井の人々を描き続けた。「たけくらべ」の美登利をもう一枚
艶やか着物と対照的に、どこか物憂げな美登利の表情が印象に残る。
一葉と美登利。清方の温かな眼差しによって、苦難多き二人の人生に、少しでも幸せな日があって欲しいと願いたくなるような一枚である。