0日後に死ぬネズミとn日後に死ぬ私

今日またネズミが旅立った
私は葡萄色とピンクのオッドアイを持ったクリーム色の巻き毛のネズミにティー君と名付けて2年一緒に暮らした
戌年生まれのネズミはなんとか子年まで粘って2歳1ヶ月と大往生の末、眠るように旅立った


ネズミは人間の40倍の速度で年をとると言われている
だから人間の年齢にしたら83歳のおじいちゃんだった
数ヶ月前から少しずつ毛が薄くなったりゆっくり動くようになったりして、ティー君も老いたなと思っていたけれど、2歳を過ぎてからは日毎に年を取っているように見えた


そしてちょうど一週間前に足腰が立たなくなった


今まで食べていたドッグフードやペレットを食べられなくなったから、砂糖水でふやかしたペレットやヨーグルトを試して、最終的にミニッツメイドのパウチの朝バナナに落ち着いた
毎日5回朝バナナを少しずつ少しずつ食べさせて、明日はもう会えないかもしれないと思いながら眠りについたけど、ティー君は一週間も生きてくれた
食の細った動物には強制給餌というシリンジにつめた餌を口に流し込む方法があるけれど、介護を始める日、食欲がなくなったら終わりにしようと決めた
「食べられるだけ食べようね。もうあと眠るだけなのだから好きなだけ食べときな」と声をかけてゼリーをモチャモチャと頬張るのをずっと眺めていた


6日間頑張って、昨日ティー君はご飯を食べなくなった
最後の日は意識もほとんどなくて痩せた胸が上下に動くことがまだティー君が生きている証明だった
一緒に大学にも行ったし、仕事にも行ったし、実家にも帰った
憧れの上坂すみれさんのラジオに呼んでいただいた時、すみれさんの台本の盛大におしっこを漏らした時はこの上なく焦った
色々な出来事があって、容姿性格ともに愛らしいティー君はいろんな人に文字通り揉まれ、陽気に愛嬌を振りまいてその生涯を終えた
たった1週間の介護だったけれど、今までの動物との別れよりは随分心の準備ができたと思う

こんなによく懐く優しい毛玉が2年で生涯を終えるなんて4匹送ってもまだ信じられない
人間の40倍の速さだなんて
2年という年月のあまりの短さはネズミを買うと痛いほど実感することができるのである
でも、嘆いている内にふと私もネズミの40倍生きたら死ぬというに気づいた
そう考えると私の人生もまたひどく短い気がしてきた
しかも、私は来月25歳になる
つまり、これ以上ないくらいうまく長生きできたとしてもすでに人生の1/4を生き終わってしまったということだ

25年弱を振り返ると良い人生だったと思う
25年で誇りを持って興味を持って取り組める仕事と十分な人数の心許せる友達と生活を彩ってくれる趣味、そしてそれらを存分に愛するのに足りる時間を得た
1日だとか一週間だとか小さい区切りでみると無駄なことはいくらでもしたけれど、全部合わせて、良いじゃんと自分で思える人生だ

ただ、この先、どうなりたいかは全く考えてこなかった
選択することが極端に少ない人生を送ってきたと思う
物心のつく前に高校までエスカレーター式の小学校に入り、大学は1校受けて受かったところに進学し、そのまま同じ大学院に進んだ
その途中で入った芸能事務所も今年の5月で3年目だ
物心ついた4歳くらいから”自分の好きなことについて話すことと書くことが得意で生き物が好きな人見知りで一癖ある人”を続けて今に至るのだ

満足していない訳じゃないけれど、あっという間にすぎてしまう年月を生きる上でこのまま選ばずにいたらやってみたかったなと思うことを逃してしまうような気がした

格闘技をやってみたい、絵もうまくなってみたい、ダンスも習ってみたい、心からこれだ!と思う部屋で生活したい、いつか覚えようとしてしまいこんだタロットカードを今年こそ覚えたい、理想の体型になりたい、小説家にもなってみたい、映画に詳しくなりたい、新しい本を出したい、自分のレシピ集を持ちたい、歌がうまくなってみたい、演劇をしてみたい、生き物に関係のないエッセイも出版してみたい、明るい人間になってみたい、美人になりたい、英語を喋れるようになりたい、服を縫ってみたい、良い論文を出してみたい……

書き出して見るとやってみたいことが溢れ出してきた
やりたいことがこんなにあるのにあんまりやろうとしていなかったのである
やってみたいことの中にはできそうなこともあれば、私には到底できなさそうに見えることもある
けれど、できそうかできなさそうかなんて、できたとできなかったという結果でしか
結論づけることはできないと思う
少なくとも目指したせいで遠ざかることはあるまい
一番遠いのは間違いなくやらないことなのだからそれ以外を恐れる必要はないのだと思う

今日、ドレッサーの中を要るものと要らないものに分けた
気分転換に前髪の分け目を変えてみた
それから自分のことを明るい美人だと思い込んで生きてみることにした
やってみた結果、私にはやっぱり暗い方が合っていると気付く日はくるかもしれないけれど、明るい人間になれなかったことを後悔する可能性が消せるだけで十分だ
これから新しい本の原稿を書いて、それでも余裕があったら筋トレしたり絵を書いたりしようと思う
今の私はたった100個のやってみたいことさえできるかわからない
確実にできるのはやってみようとすることだけだ
n日後に旅立つ私はネズミの40倍の時間でどこまでできるか知りたいと思う

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