じいちゃん on ハイエース
「みんなでじいちゃんを温泉に連れていこう。」
父が珍しく提案してきた。
医者には止められたけど、最後の思い出にと半ば強引に他県の温泉に行くことにした。
「楽しみだ」
会う度、いつもじいちゃんは言っていた。
じいちゃんは旅行が好きな人だった。しょっちゅうばあちゃんと二人で旅行に行っていた。でも、ばあちゃんが亡くなってからはめっきりだった。
2月の半ば、冬晴れの土曜日。
ハイエースを借りてじいちゃんと、いとこ達みんなで温泉に向かった。
途中、じいちゃんは孫たちから沢山のお菓子をもらって終始嬉しそうだった。
ゆっくりと温泉に浸かって、夜はみんなで宴会だった。頬を赤らめて、あんなに楽しそうに喋るじいちゃんを、僕は初めて見た気がする。とっても楽しい1日だった。
次の日、朝ごはんを食べて旅館を後にした。
帰りの車中、おチビちゃん達とお母ちゃん達は爆睡。私と父はコーヒー片手に高速をひたすら走り続けた。
ふと、ルームミラー越しにじいちゃんをみると、黙って窓の外を眺めていた。寝ることもなくずっと、外を見てた。
その時のじいちゃんの横顔は今でも鮮明に覚えている。満足そうな、でも少し残り惜しそうな横顔だった。
あの時、じいちゃんは何を考えていたのだろう。
聞いてみたかった。
でも、なんだか怖くて聞けなかった。
「コンビニ行きてえ」と呟いて、ハンドルを左に切ったのは高速を降りる為だった。
下道を使えば、もう少しだけじいちゃんとの旅行を続られると思ったから。