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カウンター席はお好きですか? 「ミオ・バール(私のバール)」の愛し方
Chao!だけで済む、「毎日通う」バール文化。
毎日何度もカッフェ(=エスプレッソ)を飲むイタリア人は、誰しもいくつかのミオ・バール(私のバール)を持っています。お気に入りの行きつけ、ってやつですね。
出勤前にカプチーノと甘いコルネット、11時頃にカッフェ、ランチ後にカッフェ、2時頃にカッフェ、帰宅前にアペリティーヴォ。とかとか。とにかく日に何度もミオ・バールに行くそうです。
バンコ(カウンター)越しに店主と挨拶を交わし、常連同士でおしゃべりもしますが、長居はしません。エスプレッソは文字通り高速で出てくるので、おしゃべり好きなイタリア人も長く話し込んでるヒマはなさそう。「すぐに飲まなきゃクレマが消えちゃうよ」「おいしいうちに飲まないでどうするんだ」ってなもんで、たっぷりの砂糖を入れ、スプーンでしっかりかき混ぜて、何口かで飲み干す。で、Ciao!と片手をあげて出て行きます。
Ciao!は便利な言葉で、「こんにちは」の場面でも「さようなら」の場面でも使えます。「よぉ!」「どうも!」みたいな? バールを後にするときのCiao!は「明日も明後日も来るし。っていうか、数時間後にまた来るかもしれないけどね、じゃね」って感じじゃないかなと思います。
カウンター好きなら、ミオ・バールは見つけやすい。
そもそもカウンター席のある店が好きです。店主やシェフとおしゃべりするのは楽しいし、作っている手元を眺めるのも大好き。カフェでもレストランでも、自分で選んでも迷惑にならない場合はカウンターを希望してみます。たとえその日自分がカウンターに陣取れなくても、そこで別の常連さんが店主と話している、その雰囲気がとても好きです。
コロナ禍で、マスク越し/ついたて越しだったりはしますが、そういう日常にも慣れてしまえばよいと思います。
お店にとって、無数の飲食店の中から「選んでもらう」ことは存続にも関わる重要な事柄ですが、客にとっても「選ぶ」のはとても重要。なにしろ、自分で稼いだお金でその日食べるもの、飲むものを選び、ひとときの貴重な時間を過ごすのですから。「どうせお金を払うなら好きなお店に」そんな想いもあります。
味がいい、雰囲気がいい。そんなのは当然だと思っていて。そうしたすべての要素を作っているのは言うまでもなく「人」だから、カウンター席の存在は仲良くなるための近道だと思うんです。そもそもカウンター席を設けている=お客さんと話したい気持ちがある人・・・なのかな?と思うと、そこに「仲良くなる第一歩」が開かれているようにも思えます。
こちらは、大好きな「Mamma Luisa's Table」のカウンター席。「あの店のパスタ」ではなく、「ピエトロさんのパスタ」が食べたくて通っています。大理石のカウンターで魔法のように手早く作られる手打ちパスタやお菓子を眺めているだけで3日分の幸せ感を味わえます♥︎
「ミオ・バール」を見つける幸せ。
さて、「ミオ・バール」に話を戻しましょう。
「▲▲という店の珈琲がおいしい」ではなく、「●●さんの珈琲がおいしい」。そんな、名前で呼べる関係になれたら、そこは「ミオ・バール」の大候補です。別にイタリア系のカフェである必要はないし、カウンターがなくたってもちろんよいのです。
大切なのは、そのお店を「人ごと」好きになれるかどうか。たとえばたまたま行ってみた日に、その店が急に休んでいたとします。「なんだよ〜、せっかく来たのに、休み?」と非難めいたがっかり感を抱くのではなく、「え、●●さん、大丈夫かな、ケガでもした?」と心配になる。もしも混んでいたら、さっと飲んでさっと帰る、もしくは「またにしよう」と遠慮する。
そのかわり、その店に行けば、いつも間違いなく幸せな気持ちになれる。だから、また通う。そこまでいったらもう間違いなく完璧に、「ミオ・バール」ですね。
私は今「●●さん」と書いていますが、この「●●」には少なくとも3人の人の名前が浮かんでいます。ミオ・バールが3つもあるなんて、なんと幸せなことかしら。
「コーヒーハウスニシヤ」で英才教育。
ご近所に、「コーヒーハウスニシヤ」があります。「●●さん」の中のひとり、ニシヤさんのお店です。
ランチ後にエスプレッソだけ飲んだり、仕事帰りに1杯だけお酒を飲んだりする使い方なので、ほぼ毎回バンコ(カウンター)でささっと素早く。行列ができるくらい大人気のカフェなので、長居はしません。でも、短い時間でもマスターと交わす会話が何より楽しいです。
息子は、ウィルキンソンの箱にのぼらせてもらわないとマスターの顔が見えないくらいちっこい頃からの常連。ニシヤさんとの関わりを通じて、「ミオ・バールの愛し方」を英才教育しています。
「できればバンコ(カウンター)を陣取るべし」
「マスターとの会話を楽しむべし」
「出されたものはおいしいうちに、すぐ味わうべし」
「長居せず、じゃぁまた! と帰るべし」
2年後にはウィルキンソンBOXなしでもバンコに立てるようになった息子。親友も一緒に訪れてみたり、ハロウィンの時には仮装してお邪魔させてもらったり。
「好きなお店を友達に紹介して、その友達も気に入ってくれる」
そういうつながりも、またうれしいものです。まさしく、自慢のミオ・バール。
息子は「ニシヤさんの前を歩いてると、お店の中からボクに気づいて手を振ってくれるのがうれしい」とも話していました。
たとえその日は立ち寄らなくても、「よ!(←Ciao!の感覚w)」と片手を挙げて挨拶しあえる関係性は本当に心地よく、息子もそれを感じ取っているようです。
息子が20歳になっても30歳になっても、彼女や友達を連れてCiao!な感じで入っていけるミオ・バール。ずーっとこの場所にあってほしいなと願ってやみません。