非情怪談【毎週ショートショートnote】
営業部長は非常階段の踊り場で一服していた。
鉄扉がギィッと開き、振り返ると見覚えのある男がいた。確か昔の部下だ。
「あれ、お前、本社に異動か」
「違いますよ。十五年前退職しました。あなたのパワハラで」
「ええっ」部長の頭の中で記憶がぐるぐる回る。
些細なミスを長時間怒鳴りつけた。取引先の前で恥をかかせた。指導だと言って殴った。
でも俺じゃない、故郷に帰ると言ったはず……
「そんなの口実ですよ」
部長は思い出した。
ここにはパワハラで退職した元社員の怨霊が出るらしい。
「お前まさか、死ん……」
男はにやりと笑った。
「さぁね……」
その姿が白く煙る。
部長は青い顔で「許してくれ!」と泣き叫び、階段を駆け下りていった。
「カット!」
その声で、階上の撮影係、階下のスモーク係は片付けを始め、男はメイク落としシートで顔を拭く。
パワハラ調査中の人事部による芝居だった。
「営業部長、反省度評価B」
「それにしても、いじめた側ってすっかり忘れてるんですね。腹立つ」
(413字)
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#毎週ショートショートnote に参加しました。
お題「非情怪談」
書ききれませんでしたが、元部下さんは故郷で平穏に暮らしているという設定です。
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【今日の写真】みんなのフォトギャラリーから。
「非常階段」で検索。
そうそう、こういう重そうな扉です。
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