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タンバリン湿原【毎週ショートショートnote】

湿原で遭難者が増えているという。
フリーライターの私は興味を持ち、現地に向かった。

ハイキング客が歩く木道もくどうは途中で左右に分かれる。
案内マップを見ると周遊ルートは右だ。
左は森に続いているが、マップには何も書かれていない。
これは何かある。
私は左に向かった。

森の中で背の高い草をかき分けて進むと、霧の向こうに十歳くらいの少女が歩く後ろ姿が見えた。

長い髪にリボンを結び、茜色のビロードのワンピース。
エナメルの靴が一歩進むたび、手に持つタンバリンが小さな音を立てる。
迷子なのか?
「おーい」声をかけると少女は振り向いた。

その顔は髑髏どくろだった。

「わあああ」私は腰を抜かし木道から落ちた。
斜面を転がって頭を打ち、気を失った。

気がつくと救急車の中だった。
役場の制服を着た若い男がこちらを見た。
「見たんですね」
私がうなずくと、彼は説明してくれた。

「あの子は華族の娘で、七十年前に森で迷子になり、亡くなったんです。
だから『タンバリンの森』と呼ばれていましたが、時々あの子が出るので驚いて転んだり、下まで落ちて遭難する人が増えたので、湿原の周遊ルートを右だけにしたんです。
森の名前もマップから消しました。それなのに」
彼は私をじろっと睨んだ。
「変に深読みして左に行く人が多くて。あなたみたいに」

車内に気まずい空気が流れる。
サイレンの合間にタンバリンの音が聞こえる気がした。
タン、タン、シャン、シャン……

(598字)

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#毎週ショートショートnote に参加しました。
裏お題「タンバリン湿原」

すみません、字数大幅にオーバーしましたm(__)m
今回はこれ以上縮められませんでしたm(__)m

このフリーライターさんは以前こちらに出てきました↓

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【今日の写真】みんなのフォトギャラリーから。
「森」で検索。
(タンバリンでも湿原でもない(^^ゞ)
絶対何かある森。


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