誘惑銀杏【毎週ショートショートnote】

下駄の鼻緒が切れた男に杏あんは声をかけ、器用にすげてやる。
男は独り身の職人だった。
話が弾んだ二人は角打ちで飲み、杏の住む長屋へ……。

男が杏の肩を抱き寄せた時、突然襖が開いた。
「女房に何をする！」旦那の銀次だった。
「……旦那がいるなんて」
「知らないとは言わせねえ。瓦版屋に垂れ込んでやる。お前の評判はがた落ちだ。もし黙っていろと言うなら……」

翌朝、男は金貸し屋に駆け込んだ。
金貸し屋の話では、これは誘惑銀杏ぎんなんと呼ばれ、銀次と杏の共謀で被害者も多いという。
「気立てのいい女だと思ったのに……」
男は悔しそうに言った。

数日後、長屋に奉行所の同心たちが来た。
「偽小判が出回っている。検あらためさせてもらうぞ」
男が持参した小判は偽物だった。
「あいつ！」
悔しがる銀次に同心が訊いた。
「おい、どうやってこれを手に入れた？」

誘惑銀杏は恐喝罪でお縄頂戴となった。

男に同情した金貸し屋が偽小判を用意し、奉行所に通報したのだ。

（413字）

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お題「誘惑銀杏」

お題、「ぎんなん」じゃなくて本当は「いちょう」だった説が(^^ゞ

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【今日のイラスト】いらすとやさんの小判です。