三日月ファストパス【毎週ショートショートnote】

あいつはいつも違う顔をしていた。
明るい顔色だったり、ちょっと影ができていたり。
まるい笑顔もあれば、うつむいておとなしそうな日もあった。
一日ごとに形が変わり、天候によって見え方が変わる月のようだった。

あいつが楽しそうな時は、一緒に冗談を言って笑い合っていたが、沈んでいる時は近寄らなかった。
今思えば、そんな時、ちょっとでいいから声をかけたらよかったのだ。
でもうるさく思われるのはイヤだったからスルーしてしまった。
いいヤツに見られたいって。ばかな俺だ。

あいつの顔が、ちょっと痩せてなんだかうつむき加減で、月でいうと三日月の日が続いていると思った頃。
すでにあいつは良くないやつらと関わるようになっていた。
そしてとうとう、行ってはいけないところに行ってしまった。
直前に気がつき、俺たち仲間が追いかけたが、間に合わなかった。

だってあいつはファストパスを持っていたんだ。
前科者へのファストパス。
そんなもの、持たせずに済んだはずなのに。

（411字）

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#毎週ショートショートnote に参加しました。

先日、企画に参加して書いた作品の中で、ある人が逮捕されます。その人の仲間の立場で書いてみました。

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【今日のイラスト】みんなのフォトギャラリーから。
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儚く美しい月だったそうです。