センチメンタル熱海 6 ベリー皿
カンカンカンカンカンカン
閉店したレストランで鳴り響く音。
音の主は我が姫ラプンツェルだ。
その手元を見ると白い皿が飛んでいる。
中華料理とかの取り皿としてよく見る、
大きさ14センチの「ベリー皿」。
このレストランでは一番使用頻度の高い皿で、
洗い上がる量も一番。
私たちは洗い上がったその皿を
限られた時間内に一枚一枚拭いて
次のためにセットしなければならない。
洗い残しがないかチェックしながらだ。
私が慣れない手でやると
取って、拭いて、重ねて、
カシャ…カシャ…となる。
あのようにはいかない。
手が滑って割ってしまうかもしれないからだ。
隣からはお構いなしに
カンカンカンカンカンカンと音が響く。
どんどん皿が積み上がっていく。
割らない加減を知っているからできる技だ。
ベテランの証だとも言える。
その音を聴くと、
つい投げられる皿の気持ちになる。
ありきたりの皿、投げられる私。
いつしか投げる方の気持ちにも。
ありきたりの皿を
大量に拭かなければならない私。
もう何年これを繰り返したのだろう。
今日も明日も。使えない新人(私)の分も。
そう想像すると手がどんどん速くなり、
皿の響きも大きくなって、
不思議と音が大きくなればなるほど、
仕事をしているような気になる。
以前、日本料理店にいたときは
お皿の音を出すのはご法度だった。
息を潜めて料理を運んだりしていた。
器は薄くて壊れそうなものばかり。
そっと、すっとの世界だった。
家族で行った台湾旅行の夕食。
サービススタッフが、
下げる皿をガシャガシャガシャと
目の前でスープボールに突っ込んだ。
その乱暴さにびっくりしたが
しばらくの間、旅の笑い話になった。
どちらも同じお皿だろうに……。
そうため息をつく私は、
このベリー皿をすでに7枚割っている。