御園マゲ美(MIZONO MAGEMI)
ちょっとだけ熱海へ単身赴任したときの様子を綴りました。熱海大好きな町です。
「6月は紫陽花」と誰もが思うくらい、みんな紫陽花を見たがる。 それしかないのかっていうくらい。ネットのバナーも、雑貨も、パフェまで紫陽花。梅雨の最中で行く場所も限られて、この鬱々とした気分を晴らすのに鮮やかで美しいものが見たい。・・・・・ものすごくわかる。わかりすぎる。 6月第二週の平日。大混雑の明月院の入り口の前で、私は予想通りの状況に何とも言えない気分になった。衝動を抑え切れないのは私もで、今日はわざわざ水色の着物を着て簪も紫陽花という気合いの入れっぷり。手ぬぐいも紫陽
こんにちは、浅草大好きマゲ美です。 その浅草が一年で一番盛り上がる日が「三社祭」。 2023年は5/19・20・21で開催、コロナ禍を越えて4年ぶりとなりました。 三社祭は浅草神社のお祭りです。 三社とは浅草神社の旧名で、 浅草の観音様を隅田川で見つけた漁師の 檜前浜成(ひのくまのはまなり)・竹成(たけなり)兄弟と、 この土地の長で二人から相談を受けて 観音様を自宅に祀った土師真中知(はじのまつちみこと)。 この三人を三社様として祀ったのが起源となります。 その三社様を神
ホテルのレストランの仕事が終わり、明日は休み。 私は最終の新幹線を目指して、 熱海の暗いひんやりとした商店街の 坂を駆け上がる。 観光地の夜はやたらと早い。 駅前なのに人通りもない。 地元の人は車なので尚更だ。帰りに飲みに寄ることもない。 宿泊客もホテルから出てこない。 そもそも出ていく先がないからだ。 繁盛した時代は、不夜城のごとくさぞ煌びやかだったろう。 商店街に置かれた展示コーナーの白黒写真が、そう語っていた。 今、目の前にあるのは真っ暗なコンクリの森と電気の点か
私は坂を登って出勤する。 たった5分の通勤時間は 吐き気と孤独感と絶望感が混ざった拷問だ。 しかもこれを1日2回繰り返す。 まさに地獄のような時間だ。 坂を登り切ったところの建物と建物の間から、 初島が見える。 朝日を受けた島影は神々しく、 一瞬だけ私の気持ちが晴れる。 夕日を受けた島影は琥珀色に染まって、 こころ安らぎ、 夜はささやかな明かりがキラキラと 星の様で和んだ。 初島を見る一瞬だけ、私が私に戻れるのだ。 ああ、あなたがいてくれてよかった。 雨や曇りの日に島
とうとう来てしまった「熱海秘宝館」。 正面には微妙なところまでが人間の人魚姫が、 昭和のムード歌謡曲をBGMに微笑んでいる。 その昔、秘宝館は全国の温泉街などにあった。 温泉とエロは何か密接な関係があるのだろうか。 ここのように独立したものではなくても お土産店の奥の一角が、似たようになっていたのを覚えている。 おそらく秘宝館創設時のターゲットは、 新婚旅行のカップルかはたまた宴会団体の男性客。 ジェンダーの幅狭く、性に対して緩かった時代の 大人のテーマパークといったと
旅で訪れたら必ず「行かなくちゃいけない」と 思わせる場所がある。 京都の清水寺然り、東京の浅草寺然り。 ここ熱海では崖にそびえ立つ 「熱海城」そして「熱海秘宝館」だ。 「妙な年齢の女がひとり、なにも貴重な休日を使って…」とぶつぶつ。 「さすがに秘宝館はね…」と葛藤しながら ロープウェイの切符窓口に行った。 「秘宝館とセットならお得ですよ。」 「はいそれで。」 考えるより先に返事をしてしまった。 動揺したままロープウェイに乗った私。 耳は、周りのカップルの会話に囚われ
カンカンカンカンカンカン 閉店したレストランで鳴り響く音。 音の主は我が姫ラプンツェルだ。 その手元を見ると白い皿が飛んでいる。 中華料理とかの取り皿としてよく見る、 大きさ14センチの「ベリー皿」。 このレストランでは一番使用頻度の高い皿で、 洗い上がる量も一番。 私たちは洗い上がったその皿を 限られた時間内に一枚一枚拭いて 次のためにセットしなければならない。 洗い残しがないかチェックしながらだ。 私が慣れない手でやると 取って、拭いて、重ねて、 カシャ…カシャ…
熱海は坂ばかりで平地がない。 坂の上は熱海駅、坂の下はサンビーチ。 私の勤務先はその真ん中。 朝サンビーチからの強烈な朝日を背に受け 吐き気に堪えながら坂を上がる。 たった5分の通勤時間でも 疲労と孤独がミックスした絶望感がものすごい。 ここはゴルゴタの丘なのか。 熱海ではなかったか。 ちょうど上がり切ったところで初島が見える。 ああ、何故あなたはいつも美しいのか。 晴れでも曇りでも波間に浮かぶ姿は この暮らしの唯一の癒しだ。 観光客も 坂を下がるカップルは楽しそうに足
職場に髪の美しい先輩がいる。 浪漫的な着物が似合いそうなひと。 配属になって上司から一番最初に教わったのは、 彼女はこのレストランで一番のベテランで 仕事を熟知していて、 そして人見知りであることだった。 それを知っていたお陰で ちょっとクールな彼女の態度にも 心折れず、仕事を教わることができた。 久しぶりの熱海の花火が上がった時、 予想外のはしゃぎ様に驚かされた。 それも束の間、 数秒後にはいつものクールな姫だった。 彼女は中抜け中、職場の一室で過ごすらしい。 ち
熱海に来たきっかけは家族旅行だ。 こども3人の5人家族。 北関東から向かう先は「ホテルニューアカオ」。 父はこのホテルに泊まるのが嬉しすぎて、 到着したのが宿泊予定の前の晩だった。 もちろんお目当てのホテルには泊まれず、 そこの駐車場を借りて車の中で夜を明かした。 夕御飯を探しに真っ暗な熱海の街を 歩き回ったのを覚えている。 でもどこで何を食べたかは覚えていない。 やっと次の日チェックイン。 シンデレラの舞踏会に来たような豪華なロビー。 「お父様!お母様!」と親に呼び
私の新しい仕事はウエイター。 ホテルの朝食と夕食のサービスがメインだ。 出勤シフトを見ると出勤が右と左に分かれて、真ん中がポッカリ空白。 これを「中抜け」というらしい。 私はその空白を埋めるように熱海の街に出かける。 不思議と朝の労働の疲れはなく、むしろハイテンションだ。 今日はビーチ近くの喫茶店で早いランチ。 観光客もここまではまだ辿り着けていない時間帯。 案内された席は何故かカーテンの影。 せっかく海が見える場所をと思ったのも束の間、 海からの光が洪水のようで目が開
今日も私は熱海の海に足を浸している。 その名の通り熱海の海水は温かくて、渚は陽射しがキラキラしている。 サンビーチという名前も本当にぴったりだ。 朝の仕事の疲れと単身赴任で生まれた心の孤独が 波間に溶けていくよう。 小さな魚を追いかける目は虚ろだ。 こんなにココロとカラダがバラバラなのも初めて。 そんな私を揺さぶるように波が寄せては返してくる。 キラキラキラキラキラキラ。 光を受けるほど私の目の暗さは濃くなる。 いっそのこと飛び込んでしまおうか・・・ こんな昼日中に