雲南市「オトナリ」に見るローカルコワーキングの在り方〜コワーキングツアー Vol.21 〜天地創世の国を往く、島根編〜その1
去る7月18日〜23日まで、久しぶりのコワーキングツアーで島根県におじゃましてきた。そこで感じたこと、考えたことを記しておく。(なお、この行程で天地創世の国らしいスポットにも足を運び、霊験あらたかな気分にもずいぶん浸ってきたのだが、長大になりそうなのでそのことは別の機会に譲ります)
コワーキングツアーとは
コワーキングツアーとは、日頃、行ったことのない地方のコワーキングスペースにおじゃまし、数日間滞在して、そこで仕事もする、イベントに参加もする、もしくは主催する、もちろん懇親会もやる、というカツドウ。
原則、現地集合・現地解散、途中参加・途中離脱OKで、各自が自分で宿泊先をブッキングしていろんな地方からいろんな人が目的のコワーキング目指してワラワラと集まって来る。
2016年からはじめてこれまで断続的に18の県の100ヶ所のコワーキングスペースを訪ねている。まあ、よく考えたら、今で言うワーケーションをずっとやってるというわけ(ぼくは、コワーキングを拠点とするのでコワーケーションと呼んでいる)。
告知と参加者募集はもっぱらこのFacebookページ。
以下、過去のブログから引用。
ただ、ここ2年はコロナ禍のせいで移動することがはばかられ自粛していたので、数回しか開催していなかった。
以下は、その数回の記録。いずれも長文注意。(既読の方はスキップしてください)
いずれも、コロナ禍における「ワーケーション」というテーマが底辺にあるので、勢いそういう文脈になってるが、ぼくの場合コワーキングがすべての起点であることは変わらない。ワーケーションによる地方創生を期待する地方自治体は、観光目線ではなくコワーキングスペースを軸に企画すべきだと思う(後ほどその話もチラッと出てきます)。
さて、今回、島根県でおじゃましたコワーキングは以下の4軒。
この稿では、オトナリさんが取り組んでいる地方におけるコワーキングについて紹介する。(他の事例についてはいずれ別稿にします)
まちのワーキングスペース オトナリ
所在地はここ。島根県の内陸部。
拡大するとこう。JR木次駅から歩いて2〜3分の商店街の中ほどにある。
その商店街。商店街というより旧街道という風情。地方都市によくあるシャッター街ほどの退廃感はなく、むしろ静かな日常を慈しんでいる感じがする。
ここがオトナリさん。空き家を改装して2020年10月にオープンした。
玄関には自分が今取り組んでいることを伝えるメッセージボードがある。ぼくも「コワーキングツアーやってます」と書いて貼ってきた。
コワーキングスペースは入って右すぐ。松波さんが執務中。
その奥の中庭が渋い。
その中庭を見ながら仕事もできる。
さらにその奥にキッチンがある。この向こうは洗面所とシャワールーム。
2階にもワークスペースがあるが、2022年5月からは宿泊もできるようになっていて、ぼくらも2泊させていただいた。(その写真、撮るの忘れました)
商店街には美味しい料理を出す飲食店もあり、クルマで10分ぐらいで元湯の源泉かけ流し温泉にも行けるし、斐伊川沿いの2kmに及ぶ桜並木は桜の名所100選にも選ばれているなど(20日の夜に開催された花火大会は感動的だった)、自然に囲まれてのんびり暮らしながら仕事するのにはうってつけ。もちろん、神話に縁のある名所にも事欠かない。
その花火はFacebookライブで約11分配信した。これはフィナーレのシーン。自然に涙が出てきた。
ということで、オトナリさんが取り組む雲南のコワーキングについていくつかキーワードをあげて書いておこう。
まちづくりという文脈
雲南市は、平成16年に5町1村が合併して生まれた町で、人口は、2017年3月現在で3万8,000人。日本の25年先の高齢化社会をいく「課題先進地域」と言われている。
それを「課題解決先進地」にするべくベンチャーマインドを発揮し熱量高く取り組んでいるのが、他でもない地元の住民たちだ。要するに、役所に押し付けるだけではなくて住民自らがまちづくりに加勢するというカルチャーがしっかりできている。自分たちで自分たちの町を作るという点では先進的な地域と言える。
何をおいても、まず、このことがオトナリさんが雲南に開設された大きな要因になっている。
今まで、コワーキングをまちづくりの文脈の中で語られることはあまりなかったかもしれない。都市圏においては言わずもがな、そういう発想は希薄ではないだろうか。
しかし、こと地方(田舎)については、すべてのことがまちづくりに関係してくる。何かコトを起こそうとする時、それに参加する人たちの行動自体が町を活性化し何ものかの成果を生み次に繋げる足がかりを作る。これを不断に継続することで町は息を吹き返す。
その中に、活動の拠点としてコワーキングスペースを位置づけることは、人を集めるという意味でも、そこで意見やアイデアを交わして試行錯誤を繰り返す、そして更新していくという意味でも、まちづくりをより具体的に進める上で極めて有用だ。
コワーキングを単なるテナントではなく、中核的施設として、コワーキングありきとして位置づけてまちづくりを企画すること。地方にはこの発想が絶対必要。
商店街の再活性化
まちづくりの流れで行くと、商店街の再活性化は避けて通れない課題だろう。通常、商店街は人が集まりやすい町の中心地にあるが、先に写真を上げたように、この町の商店街もまたかつての賑わいが失われているように感じる(コロナ禍の影響も大きいにせよ)。
そこにコワーキングを開設することで、買い物以外の目的で人が集まる理由ができる。コトを起こして人を募り行動に移す、その活動の拠点となるコワーキングが商店街にあれば、人の行き来が復活し、他の事業者にも波及効果が生まれる可能性が高い。つまり、コワーキングが商店街再生のトリガーになる。
コワーキングは単なる仕事をする作業場ではない。毎度繰り返して恐縮だが、少なくとも8つのテーマで活用されるインフラだ。それはまたこれを読んでいただくとして、
これらの目的や課題を持つ人たちが行き来する中で商店街もまた新しい価値を生むことができる。
実はぼくも、関西のある商店街にコワーキングを開設する計画の相談を受けていて、正直、焼け石に水にならないようにするにはどうするべきか思案していたところだったが、オトナリさんの事例から、まちづくりという文脈の中で商店街の再生を考えた時、コワーキングがむしろ核になることのほうが効果的だということに気づいた。
空き家対策
地方のまちづくりにおいて、前述、商店街の再活性化と絡むのが空き家対策だ。2018年の住宅・土地統計調査によると、日本の空き家は848万9千戸、空き家率は13.6%におよぶ。それから4年経っているので、この数字はさらに高まっているだろう。
ここ雲南市では、自分たちの町を自分たちで作るという意識が高いぶん、この課題についても、例えば空き家見学ツアーを実施するなどいろいろな取り組みがなされていた。そこへ、コワーキング開設の話が舞い込んだわけだが、「空き家を活用する」計画であることを伝えたところ歓迎されて、そこからは地域の方に協力いただいてトントンと話が進んだとのこと。
つまり、開設のずっと以前から、地元と協業関係ができていたということ←ここに注目。その経過を経て、次のキーワードに至る。
現地法人化
オトナリさんの運営主体は株式会社たすきという地元の企業だが、そもそも、この地にコワーキングを開設することを決めたのは株式会社ヒトカラメディアという東京の企業だ。
同社はオフィスの移転仲介や内装設計・デザイン・施工などをメイン事業としているが、ウェブサイトに「ヒトカラメディアは働き方を考える、共創支援カンパニー」と謳っているように、単なる不動産事業と一線を画するポリシーを持つ。
オトナリさんのコミュニティマネージャーを務める大塚さんも「個人が生き生きと働けることが社会にとってよくなること」と語る。この理念に基づいて場を活用した事業開発支援も行っており、今回おじゃましたオトナリさんもその一例だ。
その際、ヒトカラメディア社はまちづくりに尽力している地元の方を役員に迎えて、オトナリさんを運営する現地法人としてたすき社を設立している。つまり、東京の事業者が地元とがっぷり四つに組んでプロジェクトを始動したということ←ここも注目。
よく東京資本の事業会社(不動産業に限らず、最近ではコワーキングスペース運営業者も)が全国各地にいわゆるフランチャイズを広げるパターンを目にするが、そうした紙の上での関係ではなく、現地法人を起ち上げ、そこに人材を送り込んで地方のコワーキング運営に取り組む体制を整えている。つまり、ガチだ。
言い換えると、まちづくりのひとつの方法論としてコワーキングスペースの運営を選択しているということ。だから目的はコワーキングではなくて、町。
なので、大塚さんもヒトカラメディアからの出向という形でたすき社に加わっている。聞けば、それまで雲南に来たこともなかったそうだが、プロジェクトに共感して手を挙げたんだそう。正解だったと思う。
あくまで推測だが、同社はこのスタイルでモデルケースができたら、他の地域でも展開するだろうと思う。
Iターンするミレニアル以下の世代
これは雲南に限らず、今回のツアーで訪ねたどこでも遭遇したことだが、とにかくIターン者が多い。いや、その絶対数は判らないが、この6日間の間に何人もIターン者に出会った。奈良、兵庫、広島、東京などなどから出雲の国へ移住してきている。
その誰もが、いわゆるミレニアル以下の世代、ざっくり30歳前後の人たちで、この世代層の特徴か、「来てみて気に入ったから」という結構シンプルな理由で身軽に移動してきている。
もともとキャリアコンサルタントで移住してきてそれを(場所を変えて)続けている人や、以前は会社員だったが移住してきて農園で働くようになり、時々、コワーキングでポップアップのカレーショップを開いている人とか、実にさまざま。で、彼らもまたその地のコワーキングを拠点にしている。
いつも話してるが、地方のコワーキングは地元のローカルワーカーと外からやって来るリモートワーカーをつなぐところでもある。
彼らの拠り所となるコワーキングは、ただ仕事をするだけの場所ではない価値を提供している。
ちなみにオトナリさんでは、利用者の70%が個人事業者で30%がいわゆるリモートワークな会社員。当初ぼくはこの比率は逆だろうと思っていたのだが、そうではなかった。むしろ、自分の意志で「移働」しやすいワーカーが、こうして地方にどんどん移動していくのは必至かと思われる。
ワーケーションの企画提案
オトナリさんは、前述のような経緯で開業されたこともあって、地元自治体から委託されてコワーキングの運営をしているように受け取られることもあるそうだが、実はそうではない。まったく、民間事業として経営されている。(社名からカラオケ屋さんと間違われることもあるらしいw)
ただし、「働き方を考える、共創支援カンパニー」としてこれまで培ってきたノウハウを活用して、地方自治体からワーケーションの企画を受託している。これも、地元でコワーキングを運営しているからこそできることだ。
実はここ、今回の最大の注目点。
地方のコワーキングにとっての課題はその収益性にある。そもそもパイの小さいエリアで利用料だけで経営していくのはなかなか厳しい。なので、そこに違う収益モデルを載せて経営する必要がある。
ひとつは、イベント開催による参加費の徴収。ひとつは、そこでチームを組んで仕事を請け対価を得ること。あるいは、そこから起業するメンバーを支援する仕組みを作り将来のリターンを得ること(スタートアップスタジオがこの発想)。
などなど考えられるが、ここに来てワーケーションというイベントを地元のコワーキングが企画して自治体に提案するというのは大いにありだと思う。
ぼくは企業主導型の「日本型ワーケーション」はいずれ廃れると思っているが、それはさておき、東京の旅行代理店ではなく地元のコワーキング(地元の人が運営に関わっているコワーキング)が、まさに地元を活性化するためにワーケーションを実施することで、町も賑わい、コワーキングも新たな収益モデルを作れる。ストーリーとしては申し分ない。
これまで、ワーケーションの中でコワーキングスペースはひとつの部品としてしか扱われていなかった感がある。いわば、おまけ。「仕事するところもありますよ」的な。
ではなくて、あくまでコワーキングを中心においてワーケーションを企画、催行する。ぼくはこれを「コワーケーション」と言ってるが、まさにそれをコワーキング自身が企画して提案すること、ここが大事。
ただし、単に「作業場」にとどまっているコワーキングには、残念ながらこれはなし得ない。まずはローカルコミュニティとしてコワーキングが運営されている必要がある。かつ、外部から受け入れる体制を整えておくことも必須だ。
前述Iターン者のように自分の気にいる居場所を自分で選択するということが当たり前の世代が、もう3年もしたら労働人口の大半を占めるようになる。そうした現実に即して、地方はコワーキングをどう位置づけるか、よくよく検討すべきだと思う。
そしてその前提は、「個人が生き生きと働けることが社会にとってよくなること」という思想を共有することだろう。
(仮)全国コワーキングツアー連絡会
ちなみに、こうしてコワーキングツアーを開催しているのも、ある意味、ワーケーションの短縮版みたいなものだ。
ただぼくの場合、外部からリモートワーカーを受け入れるのではなく、リモートワーカーを募って地方のコワーキングに集める、というスタイルを取っている。COMEではなくGO。
で、こういうツアーを企画して実行する人たちのコミュニティも作ろうと思っている。(仮称)全国コワーキングツアー連絡会。そこで、各地のツアー情報をアップし参加者を募る。各地での体験もまたそこで共有する。そうしてリモートワーカーのネットワークを広げていき、各地を訪れる人をどんどん増やす。
てなことやりますので、よかったら、ぜひご参加ください。
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