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自宅をオフィスに提供するエアビが登場?シェアリングエコノミーでワーカーをサポートするフェーズへ

コロナ禍が世界的にリモートワークを推進したのは周知のところ。企業は社員に通勤せずに自宅で仕事するよう指示し、会議はZoomやTeamsなどのビデオミーティングツールを使用するのがほぼデフォルトになりつつあります。

それどころか、コロナ前に戻って再びオフィスへの通勤を強要するのなら退職も辞さないというワーカーも増えてきているため、企業も無視するわけにはいかなくなっているのが現状ですね。

ただ、在宅ワークに限界を感じているワーカーも少なくありません。元来、自宅は仕事をする環境にはできていません。同居する家族の生活パターンを乱す原因にもなり、お互いに息苦しさを感じているご家庭が多いのも事実です。これは世界的にそうで、コロナ禍以降、郊外のコワーキングのニーズが高まっているのはそのせいですね。

その「自宅以外」のワークスペースの選択肢に、なんと「他人の家」を加えたのが、今回、ポートランドでサービス開始したRadiousです。


絶妙な領域を攻めるエアビのオフィス版

「うん?それって、Airbnbじゃないの?」と思ったあなた、正解です。自分の部屋を旅行者に宿泊施設として貸し出して収益を得るのがエアビですが、これはいわばエアビのオフィス版です。

例えば、これなんかどうでしょう。まあ、サイトの見栄えはエアビそのまんまですが。(リンクしていますので画像をご覧あれ)

「プライベートで広々としたハイエンドなワークゾーン一人で仕事をするプロフェッショナルも、チームで共同作業をするプロフェッショナルも、高い生産性が待っています。
広々としたデスク、高級感あふれるハーマンミラーのアーロンチェア、自然光が差し込む大きな窓。キッチン、炭酸水、ネスプレッソ、ホットティーも完備しています。
63"×31 "の大きなテーブルは、ミーティングや作業スペースが必要な場合に最適です。リビングでくつろぎながら、新しい55インチテレビでデジタルプロジェクトのデモをすることもできます。
アクセスしやすく、プライバシーが守られ、安全で、静かな環境は、生産性と集中力を最大限に高めます。」

おお、なんかすごい仕事できそうですが、まずここ、ひとりでもチームでも利用できるスペックというのがこのサービスのカギです。ちなみに、1日92ドル(1人)。

これなんか、70年代風で面白いですよ。懐かしいエアストリームです。(リンクしていますので画像をご覧あれ)こちらは1日70ドル(1人)。

もう2年もリモートワークをしてきて慣れている人もいる一方、自宅という環境から逃れて同僚と顔を合わせたいという人も当然います。Radiousはそういうワーカーのために「WFH(在宅勤務)と従来のオフィスのいいところを組み合わせた サードプレイス だ」とアピールしていますが、確かに絶妙なところを突いてきてます。

オフィスでも自宅でもどっちでもない労働環境

もうひとつ、このサードプレイスが自宅からそう遠くないところにあって徒歩で行ける、というのも重要ポイント。3軒隣の「ゲストハウス兼オフィス」まで歩いて行って同僚と仕事するというのは、なかなかいいアイデアです。

このオフィスでもない自宅でもない、しかし、オフィスほど無機質ではない、家庭的な雰囲気の中で、リラックスして思考を巡らしたり対話でアイデアを交換したりする。よく考えたら、こういう「ビジネス臭のない」労働環境ってあまりないかもしれません。

何より、どこも唯一(ユニーク)な物件であり、2つと同じものがないというのがアピール度抜群ですね。

元々、創業者が自宅の一部をツーリスト向けにレンタルしていたところにパンデミックが発生して閉鎖となり、その代わりに思いついたのがオフィスだった、と。

よく考えたら、9時から5時までの間だけ人がいれば消耗品も少なくて済むし、宿泊しないのでリネンの洗濯もしなくていい。比較的リスクが少ない。

起業にあたっては多くの企業と対話の機会を持ったそうで、

「企業が最も重視しているのは対面でのコラ ボレーションです。一方、社員は柔軟性とワークライフバランスを最も重視しています。 そして、企業がWFHと従来のオフィスの2つの選択肢しかない場合、両方のニーズを満たすことは困難です。

私たちは、人々が実際に行きたくなるような便利な場所にコラボレーシ ョンスペースを提供することが真のチャンスであると気づきました。 もし、働く人が5分も歩けば、小さなプライベートスペースがあり、信頼できる同僚と会うことができれば、フレキシビリティと時間の節約、ワークライフセパレーションを実現しながら、直接会ってのコラボレーションを楽しむことができるのです。 Win-Winの関係です。」

企業の(=ワーカーの)ニーズをしっかりリサーチした上でのサービスロンチ。実はそこにポッカリ誰も対応していないビジネス領域があった、というわけですね。これ、コワーキングでも通用する話です。

シェアリングエコノミーがワーカーをサポートする

そして、とても重要な問いかけもしています。

「すべての企業が社員の住む地域にワークスペースを分散させていたらどうでしょう? もし、住宅地にオフィスや会議室のシェアリングエコノミーがあったらどうでしょう?」

社員がオフィスに毎朝通っていく(そうして時間とエネルギーを消耗する)のではなくて、社員が住んでいるところにオフィスや会議室を作る…いや、作るのではなくて「すでにあるものを使う」という発想。まさにシェアリングエコノミーです。

当然、分散型になる。なるけれども、これからの社会は中央集権化が崩れて自律分散型の組織運営が望まれているので、物理的に離れることでそういうマインドにもセットされやすいんじゃないでしょうかね。つまり、時代の流れともマッチするってことですね。

ちなみに、ホスト(貸し手側)にとっても、宿泊客よりもオフィス利用のほうが「掃除や洗濯の手間も省けますし、部屋の傷みも少なくなります」と言っていますが、実はこれ、一般の住居物件を撮影スタジオとして提供するハウススタジオ業でも同じことが言えます。コロナ禍のせいで旅行客が激変した中、Airbnbとして稼働させていた部屋をハウススタジオに転用する動きがあるのも、そうした事情が背景にあります。

ところで、シェアリングエコノミーについてちょっとおさらいしておくと、以前、書いた『協同組合で運営される民泊ビジネスFairbnbは本当の意味でのシェアリングエコノミーを実現するか』から引用すると

1.金銭を介しても物々交換でも取引により経済的価値が生じる
2.利用しきれていない資産がある
3.オンラインでアクセスできる(=インターネット)
4.コミュニティがある(コミュニティの信用、ソーシャルな関わり、価値の共有を通じて取り引きをスムーズにする)
5.所有する資産が減少する(私有➔他者からの提供)

を満たすことと定義され、一言で言えば、

「十分に利用されていない資産にインターネット上のコミュニティからアクセスできるようにし、資産を所有する必要性を下げること」

ということです。

ただ、システムを中央で管理するプラットフォーマーに利益が寡占されることが問題視されて、プレイヤー(参加者)に適正な収益を分配しようという動きもあちこちで起こっており、先の記事ではそれを協同組合で実行している事例を上げています。

そんな課題もはらみつつ(意識しているかどうかは知りませんが)も、Radiousは現在、ようやく50件のリスティングを達成したところですが、この1月にすでに26万5,000ドルの資金調達を行っており、着々とそのマーケットを広めつつあるようです。

Radiousの代表はこうも言っています。

「"オフィスは来たい人は来て、来たくない人は来なくていい "と言って開けばいいんです。そして、実際にそうしている企業が、人材争奪戦に勝つのだと思います。」

もう、そうなるでしょうね。それもまた、自律分散型社会のひとつの姿かと思います。

あるものを使う。この精神に則って、オフィスやコワーキングスペースに転用できるものって、他にもないでしょうか?これまでも、自社オフィスをフリーランサーや他社社員にも開放して共用ワークスペースとする企業はありましたが、そもそもオフィスではないところを提供するという視点に立ってみると、案外、身近にあるかもしれません。

というか、これをお手本に日本でも始まるかもしれません。あ、そういえば以前、ビルの屋上って使われていないから、そこでコワーキングやったらどうかな、という話がありましたけれど、あれ、どうなったんでしょう?いいアイデアだと思いますけど。

働き方も働く場所も、その方法も変革していく。まさにFuture of Workは世界中のいたるところで起こっています。そのトレンドをうまく捉えて心に余裕と余白のある人生を送りたいものです。

それでは。

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(Cover Photo : Radious)

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