⑩グレのライバル猫のこと。
物件探しに勤しんでいる中、また、出来事がありました。
前述したとおり、このあたりをまとめていたトラが亡くなってしまってから、なんともいえず秩序の保たれていない状態になってしまっていました。
トラは、別の場所のボス争いで負けて流れてきたと思われる、好き放題ふるまっているオス猫を気丈にとがめたり、どこからかやってきたメス猫にルールをおしえたり、本当にこの場所の主として、精いっぱいの働きをしてくれていました。
でも、トラの後を継ぐような気質の子は、いなかったので、まとまりのない、なにか出来事があれば一瞬でいままでの秩序が崩壊してしまうような、そんなあやうい状態に、なってしまっていました。
そんななか、グレのライバル猫が登場しました。
グレは、基本的にほかの猫と争ったりすることは見たことがなく、何かあれば自分が引く、というような、無駄な争いはしない子でした。
ある日突然姿を現したそのメス猫は、野良猫とは思えないくらい、だんにゃの足にスリスリするなど媚びを売りまくる子でした。
そしてその猫の後ろから、子猫が顔を出すのをみつけました!1~2か月の子猫が2匹です。警戒ぎみでこちらのほうには来ませんでしたが、とっても健康そうです。ママ猫がしっかり育てているんだなぁと感心しました。
ママ猫は、毎日、かなりの量のごはんをたべていました。お乳をあげていたからでしょう。そして、過剰なくらい、だんにゃの足にスリスリしました。
しかしそれだけではなく、クロや、グレなど、先にいた子のことを追い払うようになりました。
それはだんだんと、とてもしつこくなり、グレはごはんを食べられないほどになってしまいました。グレを追っているときのメス猫は、目つきが普通じゃないというか、正気じゃない感じでした。
クロも、いつもの場所ではたべられなくなり、犬のきなこちゃんがいる奥のほうへこっそりお皿を置いてあげ、メス猫がこないようにガードしてあげなければならなくなりました。
メス猫は、グレに対して、過剰に敵意をもち、グレのなわばりである古いアパートのほうまで進出してきました。
グレは、ごはんを食べていても足音がするとすぐに走って帰ってしまうようになり、だんにゃがグレにつきそって、わたしがメス猫をガードする、という二人体制をしないと、グレがご飯を食べられないまでになってしまいました。
毎日、かなり大変な作業でした。
メス猫は、ものすごい執着心で、グレを追い払おうとしてきます。
子猫を育てていて必死なのだとわかっていても、私はグレが大好きなので、後からやってきて理不尽なことをするそのメス猫の行為が許せなくて許せなくて、毎日つらかったです。でも、だんにゃは、そんな状況であっても、そのメス猫のことも、理解していたようです。もちろん、本能的にどちらも生きるために一生懸命なのですから、仕方ないのは、あたまではわかっています。でも、実際、こういう状況をまのあたりにして、わたしよりはるかにグレの面倒をみていただんにゃがそのように理解をもっていたことに、本当に、すごいなぁとおもいました。そのときの私には、とうていできないことでした。
正直、わたしは、そのメス猫のことが憎かったです。
居なくなればいいのに、とおもいました。
グレを苦しめる存在は、どんな理由があろうとも、許せない。絶対。
でも、だんにゃは、そのメス猫とその子供にも名前をつけて、それぞれの立場を理解し、尊重していました。
ある日、グレをメス猫から見守っていた時のことです。グレが慕っていたこの地域をまとめていたオスの黒猫さんに、メス猫が求愛していました。
そのオスの黒猫さんは、ほんとうに立派な猫で、ごはんはメス猫たちが食べ終わるまで口をつけませんでしたし、とてもかっこよくて、紳士的な猫でした。
グレが見ているところで、こちらに見せつけるように求愛するメス猫。グレは、その様子をチラッと見て、すぐに目をそらして下をむいて寂しそうにしょぼんとしていました。
わたしは女同士として、グレが不憫でしかたなく、ほんとうにつらかった。
そして、さらに、出来事が。
グレはそのメス猫とは衝突しないように、基本的に逃げる派で、争いことがおきないようにしていました。
ある日、メス猫が見える場所に居ましたが、めずらしくグレを追いかけてこなかったので、グレはゆっくりあるいて自分の縄張りに戻っていました。
そのとき、メス猫が、足音を立てずにゆっくりグレの背後に近づき・・・
グレを背中から襲ったのです。
2人は、かなりのもみ合いになり、たくさんの毛が飛び散りました。
その様子は人間の目では追えないほど速く、一瞬の出来事でしたが、
最後には、グレがメス猫を追いかけて路地の奥のほうへ走り去っていきました・・・・・。
グレが勝ったのです。
メス猫は、グレよりずっと体が大きく、しっかりした体つきでした。
最近の痩せていたグレが、このメス猫に勝てるとは・・・・
グレ、なんて強い子なの。
でも、それは、きっと、瀕死のちからを振り絞っていたのだろうと、このあと一か月後くらいに保護して病院に行ったときにわかりました。。。