猫は自分のことをかわいいと思っている
“猫は自分のことをかわいいと思っている”
そういった文言を聞いたことがある。
しかしこれには少し解釈違いがあったようで。
チェルシーが逃げたのはちょうど1週間前。
ベランダで洗濯機から洗濯物を取り出しているときにチラッと室内の方を見るとチェルシーが顔を10割とも閉めたはずが顔分だけ開いたままの窓から出していてあっ!て言う前にピョンッピョンッピョンッとベランダの床ッ洗濯機のフチッ柵の外ッへスリーステップで華麗に飛び立ち、2階の高さからアパート外隣接の歩道へと着地、そのままこちらを振り返り見上げ、「チェルシー!」と叫ぶと無言でトットットットッと車道へ軽やかに歩いていった。そのまま突き進めばいいものをあろうことか車道で丸く落ち着いてしまった。「チェルシー!危ない!チェルシー!」このままだと車が来てしまうと思った矢先、チェルシーの5mほど右のカドから中型トラックがチェルシーのいる方向へ曲がるウインカーを出しているのを発見。チェルシーからは死角。呑気に横っ腹をベロベロしているチェルシー。「チェルシー!!あー!!止まってくださーい!!トラック!!猫がいます猫が!!猫がいます!!止まって!!」できる限りの大声で両手を大きく振って見せるが運転手は気付かない。チェルシー、トラック、止まって、猫、チェルシー、止まって、猫がいます、トラック、チェルシー、これらをランダムで叫び続けるうちにトラックは曲がり終えてしまい思わず柵を飛び越えて歩道へ着地したら足をグネって尻もちをついてしまった。痛みをこじ開けるように目を開くとトラック運転手が驚いた顔で僕を見ているが走行をやめるほどではない。あと5m、「チェルシー!!!!」、4m、「止まって!!!!」、3m、「猫!!!!」、2m、「チェルシー!!!!」、1m、「かわいい!!!!」
ギュッとつぶった目を恐る恐る開けると、チェルシーがグネった右足の靴を嗅いでいた。
意識的か無意識か、「かわいい」って言ったら寄ってくる確率が高いことを脳みそが弾き出して叫ばせたのか、なんかわからんけど助かったみたい。「チェルシー」にあんな無反応で「かわいい」で来たってことは自分の名前を『かわいい』だと思っているという説が浮上してきた。だいたいの猫は自分を『かわいい』と思っているのかもしれない。
“猫は自分のことをかわいいと思っている”
単純にトラックに気付いて逃げてきただけかもしれんけど。