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江戸、残機1

「2032年5月13日、ついにタイムマシンが完成した!人類史上初のパイロットは、助手の葉芝くんにお願いする!葉芝くん、それではまず、江戸時代に行ってもらおう」

 「ちょっと止めてください」

「え」

 「いいからカメラ止めて!」

「うん、はい、止めた、なに?」

 「江戸時代には行かないですよ」

「なんで?」

 「行くなら未来って言ったじゃないですか僕」

「いや、でも、普通は過去じゃない?まずは、ほらバックトゥザフューチャーもまず過去で、2で未来」

 「バックトゥザフューチャーは言っても1955年でしょ?そんくらいだったら医療レベルもまぁ、大丈夫でしょう」

「医療レベル?」

 「医療レベルですよ医療レベル!江戸時代の医療なんて信用できないでしょ!嘘ばっかりでしょあんなん!もし行った先で大怪我でもしたら取り返しつかないでしょ!残機1ですよ江戸は!」

「ざんきいち?」

 「今はね、今生きてるこの時代はね、たとえば車に撥ねられようが崖から滑り落ちようが救急車が来てくれて治してくれるんですよある程度は、しかも高確率でもとの生活に戻れます、つまり残機は無限にあると言ってもいい、それが現代の医療です」

「ほぉ」

 「江戸は1!残1!絶対に無理!刀で腹刺されたらおしまい!未来に行きます僕は!」

「いやぁ、未来って、だって、未来に来ましたーって言ったって、未来の様子を撮影したって、史実としての証拠がないからなぁ、信用してもらえないんじゃない?だから江戸とかの方がインパクトも信ぴょう性もあるというか、ほら、徳川家康に会うとか」

 「徳川家康に会いに行ったら殺されますね僕、意味わかんないですよ僕あの未来から来たんでって手持ちカメラを回し出した瞬間に外国武器だと思われて弓矢とか飛んできますよ!太ももに刺さってかろうじて逃げ切ったところで医者にはどうにもできずに出血多量でおしまい!ゲームオーバー!死刑囚とかに行かせてください!」

「タイムマシンに死刑囚を乗せて江戸時代に行かすのか?」

 「ラージヒルと同じです、まずは死刑囚にやらせましょう」

「冤罪だったらどうする?」

 「知らん!確定死刑囚にしましょう」

「確定死刑囚って何?」

 「賃貸の入居申込みをして、数日後に家賃保証会社から本人確認の連絡が来たらほぼ審査下りるの確定みたいな、そういう確定死刑囚!」

「その例えだと葉芝くん、本人確認の連絡が来ても僕は落ちたことあるよ、ってことは冤罪だったってこと、死刑囚だとしたらね僕が、ということは確定死刑囚ではないってことだよ」

 「意味わからないこと言わないでください!」

「…まぁじゃあそうね、ドクターも同席させるか、医者の方のドクターね、2人乗りだし」

 「ドクターが負傷したらどうするんですか」

「まぁ、そのときは、ドクターの指示に従って、葉芝くんが」

 「ドクターが意識ないパターンもありますよ」

「じゃあ事前にドクターが意識を失ったパターンの指示をドクターに仰いで」

 「全パターンですか?意識がなくなるタイプの負傷や病気の全パターンを僕が仰ぐんですか?」

「まぁ、そうなるね」

 「医者やんそれ!僕もう医者やん!」

「医者ではないけど」

 「ドクター2人で江戸に行くことになりますよ!なんですかこれ?歴境なき医師団ですか?」

「れっきょう?」

 「団というには少ないし、そもそも到着してすぐに長い矢が僕らの太ももを串刺しにするかもしれないですよ、団子のようにね!歴境なき医師団子ってことですか!?」

「なんで矢が太ももに刺さる想定なのさっきから」

 「頭とか首だったら医療レベルが高くても助からないでしょ!」

「まぁ、とにかくリスクはあるよ、歴史的なことなんだから、多くの犠牲のもとにロケットだって打ち上げるんだから」

 「犠牲って言った今!犠牲って言いましたね!録音してます!パワハラ!」

「録音してても構わないけど、嫌だったらいいよ、誰か探すから」

 「あ、いいこと思いつきました!」



 「えー、2032年7月14日14:15出発、1603年2月12日14:16到着、葉芝星輝(らいと)です。人類初のタイムスリップに成功した模様です。ではしばらく、僕の主観カメラを搭載したこの鋼鉄耐熱防弾拡張マイク付電流ロボスーツで徳川家康の元に向かって歩きたいと思いまーす!けっこう重くて歩きにくいんですけどね」

ガシャーン、ガシャーン、ガシャーン、ガシャーン

「よ、鎧の化け物だー!弓を打てー!」

ガシャーン、キンッ、ガシャーン、キンッ

「弓をはじくだと…なんなんだあいつ!」

 「あ、あ、聞こえますかー」

「普通に喋ってるのに声が聞き取りやすいぞ!どういうカラクリだありゃ?」

 「聞こえてますね、えー、徳川家康さんにお会いしたいのですがー、えー、徳川家康さーん!徳川家康さーん!はじめましてー!葉芝星輝ですー!未来から来たので、少しお話だけ伺ってもよろしいでしょうかー!」

たまたま「はしば」という名字だったので、なんだかんだ門が開いて家康の姿を撮影することに成功した。すぐに帰ろうとしたら捕らえられそうになったので、電流モードで振り切り、なんとか現代まで戻ってきた。

 「博士、僕が葉芝だから行かせたんですか?」

「え? あー確かに、そっか、いま気付いた」

 「僕のアイデアが無かったら殺されてたんですけど!」

「ごめんごめん!高い焼肉奢るから!」

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