透明の日
お冷セルフサービスと壁に書いてあったので、席を立ち逆置きされたコップを取ってセッティングしてボタンを長押し、8分目で止めて、それを2回、2つ持って席に戻る。
「ありがとう」
女は喉が渇いていたのか直に手から手でお冷を受け取りぐいと飲み干す角度で飲み出したがすぐに口を離し、
「なんやこれ!」
ってうるさく言ってしまったことに口元を押さえた。
「え、どないしたんすか?」
そう言うと女は何か言いかけて、一瞬でそれをキャンセルして、
「飲んでみ」
と言ってきた。
「あ、そっちもかな?まぁおんなしか」
「え?」
「あ、とりあえずどうぞ、飲んでみて」
何か変な味でもするのかと思い、言われるがままに恐る恐る飲んでみると、コーラの味がした。
「透明コーラ…?」
「透明コーラやんな!?」
透明コーラ。
すぐに透明コーラで検索すると、3年前とかに生産が終了してるっぽい。
「生産終了してるのに、なんであるんですかね?」
「っていうかていうか、論点はそこやなくて、なんで洋食屋のお冷が透明コーラなんかって話」
思い立って店名で調べてみると、とくに透明コーラについて言及されたレビューは見当たらなかった。
「別に透明コーラが名物の店でもないですねぇ」
「聞いてみる?」
「いや、聞いたらおもんないでしょ」
「確かに」
そこになかなか注文しない僕らに痺れを切らしたおばちゃん店員が来た。
「ご注文どうしましょうか」
「あ、えっとじゃあ、この、チーズハンバーグセット」
「あたしも」
「を2つで」
「お飲み物は?」
「あー、えーっと、あ、ドリンクつくんですね」
「はい」
「えっとじゃあ、えっ…」
僕はメニューのソフトドリンクのところを指さして、女にアイコンタクトをした。
「コーラ2つ(笑)」
女が勝手に注文して、メニューが取り上げられた。
「え、これ、どっちが来んねやろ?」
「いやぁ、さすがに黒いコーラでしょ」
「いやいやいや、透明やろ」
「だってセルフサービスのお冷が透明コーラなんですよ?じゃあコーラは黒いコーラでしょ」
「いや、ちょっとでっかめのジョッキに、透明コーラが来ると思うわ」
「なんでやねん」
「お先コーラ2つですね」
「ぶっ(笑)」
「ばぁはっ(笑)」
お冷と同じサイズのコップと瓶の透明コーラが2セット置かれた。
「瓶~(笑)」
「見たことない見たことない、ビンの透明」
「空き瓶やん(笑)」
「じゃあなんでお冷無料やねん」
「がはぁっ(笑)やめてやめて腹痛い腹痛い!」
意気投合したので食後すぐにホテルに行って、透明なものを見るたびに笑い合った。
気持ち悪い話ですみませんでした。