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転校生
「あちょっとそのへん危ないから、ベトベトで。」
トイレから持ってきたトイレットペーパーで床の油を拭きながら、元気よく登校してきた男子に注意喚起をした。この床の油の出所は私で、厳密には朝あの直角の曲がり角でぶつかったアイツなんだけど、私の右半身にしゅんだ油は重力でだらだらとスカートを伝って垂れ続ける。ナメクジのように動線がバレバレの私は、荷物を中央後ろから2番目の机に置いたところからサチたちに持ってきてもらったトイレットペッパーを片手に、教卓のところまで吹き進んできた。
「何してんの河本さん。」
顔を上げると川神先生で、と視認するかしないかの瞬間に先生の顔はめっちゃ怖い幽霊に足を引っぱられたように視界からストンと下方向に消え、ドバン!と音がした。
「大丈夫!?先生!」
わらわらとクラスメイトたちが駆け寄ってきて、先生は前方向に顔面から落ちたその顔面を少し上げて漫画みたいに目が渦巻き🌀🌀になっていて、私から見て右の渦巻きの下が切れていて血がたらーっと出ていた。
「先生、目から血!」
私は持っていたトイレットペーパーを先生に渡した。
「ありがとう。大丈夫よみんな、いてててて。席について。今日は転入生を紹介するわ。じゃあ入ってきてください。」
気が動転してテンポを間違えている先生の呼びかけにガラガラガラと音がして入ってきたのは棒餃子だった。
「あー!お前はさっきの!」
って言われた。棒餃子の方から言われた。
「あら、河本さん、お知り合いなの?」
「あ、いえ、さっき、来る途中にぶつかって。」
「ぶつかった?2人とも怪我はない?」
「はい、ていうか先生、目から血が。」
先生はトイレットペーパーをスーッと伸ばして千切って4つ折にしてガーゼくらいのサイズにして、ビーッと窓際の机のセロテープを取って切り口にそのガーゼを貼り付けた。
「どうかされたんですか?」
棒餃子に心配された先生は、改めてみんなを席につかせて、棒餃子に自己紹介を促した。棒餃子が前の学校で棒高跳びをしていたと言うと男子が笑っていた。棒餃子はウケたことにまんざらでもなかったのか、背面跳びで具が飛び出たエピソードを饒舌に披露して大人しい女子までもが笑っていた。先生も真っ赤なガーゼを目元に声を出して笑っていた。私は笑いの渦の中、机の下でスカートをギュッと絞って非常に不快だった。
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